(※写真はイメージです/PIXTA)

ある男性が保有する貸家は、駅に近く人気は高いものの、かなりの築古となったため建て替えを検討しています。ところが、相談した建設会社からまさかの「建て直し不可能」の返答が…。詳しく調べたところ、とんでもない事態が判明しました。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに、生前対策について解説します。

70代男性が保有の貸家、人気が高くフル稼働だが…

今回の相談者は、70代の中村さんです。保有する不動産の件で悩んでいるということで、筆者のもとに訪れました。

 

中村さんは、自宅以外にも30代で中古の戸建て住宅を購入し、貸家にしています。頭金は預金預金を当て、残りは融資を受けました。ローン返済はすでに終わっています。家賃収入は月額10万円程度で、定年退職後のリタイヤしたあとの年金の補填として役立っています。

 

この貸家は都心に出やすい立地にあることから人気で、収入は安定していました。しかし、すでに築40年を過ぎており、外観からも老朽化は明らかです。そろそろ建て替える必要があります。

 

「いくら立地がよくても、建物がボロボロでして…。そのため、建築会社に建て替えの相談をしたんです。ところが、〈建て直しができない土地ですよ〉といわれまして…」

 

中村さんは解決の道を探せず、困り果てているということでした。

旗竿状の敷地…通路部分が「11人と共有状態」!?

筆者と提携先の弁護士は、中村さんが持参した書類を見せてもらいました。すると、中村さんの貸家が建つ土地は、入り口部分の土地と奥の土地の2筆に分かれていました。いわゆる旗竿状の地形ですが、入り口部分が、なんと11名もの他人と共有名義になっているのです。貸家が建つ奥の土地は、道路がない袋地となります。

 

今の貸家を壊して建て替えるには、公道に面した土地の共有者から承諾を得るか、中村さん名義にまとめて敷地延長の宅地にするかのいずれかの選択肢になります。もしくは、このまま、不動産会社などに売却してしまうことも選択肢となります。

 

筆者は、中村さんのお考えを聞いたところ、

 

「あの土地は立地もいいですし、家を建て替えれば新たな需要が見込めると考えています。ですので、買い取りの費用がかかっても、通路部分の土地を自分の名義にして、建て替えができる土地にしたいのです…」

 

ということで、意志は固いようでした。

土地の共有者一人ひとりを訪ね歩き…

該当の土地の地目は「公衆用道路」となっており、固定資産税はかかりません。共有者に負担はないのですが、同時に、所有するメリットもありません。

 

筆者と弁護士は、中村さんの希望を叶えるべく、入り口の土地の共有者を訪ね、権利分を譲渡してもらうべく状況の説明を行った結果、すべての方が理解を示してくださり、手続きに協力していただけることになりました。

 

この手続きが完了して中村さん名義の土地になれば、いよいよ建て替えが可能になります。

他人との土地共有は最悪、購入時は十分に確認を!

本来であれば、40年以上前に中村さんが購入契約をする段階で、権利関係を確認しておくべきでした。厳しくいうなら、「認識の甘さ」のツケが回ってきたということです。

 

もっとも現在は、仲介会社が権利関係を確認のうえ取引をおこなうため、このようなトラブルはまず起こりませんが、当時はそうした意識が不足していたのかもしれません。

 

いずれにしろ、契約時には慎重な確認が必須なのです。

 

今回は共有者のみなさんに持ち分を譲渡してもらうことができたわけですが、これは本当に運がよかったというべきでしょう。共有者がへそを曲げて同意が得られない、あるいは所在不明で連絡が取れないといったことも十分に起こりうることであり、そうなれば状況は行き詰まってしまいます。

 

 

親族はもとより、他人との土地の共有は絶対に回避すべきですので、購入時にはしっかり確認するようにしてください。

 

※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

 

曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士

 

◆相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

 

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

本記事は、株式会社夢相続のサイト掲載された事例を転載・再編集したものです。

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