指導者が最もやってはいけない「誤った自己流の指導」
指導者が最もやってはいけないこと。それは「自己流の指導を貫いてしまうこと」です。どんな指導者もありとあらゆることに知識があればいいのですが、実際はそうではありません。たとえば「野球の技術指導はできるけれども、肉体強化の知識はそれほどでもない」ということは往々にしてあります。
ウエイトトレーニングのコーチから学んだこと
私自身もそうでした。1983年春のセンバツのことです。当時のチームは東京大会で優勝し、明治神宮大会こそ1回戦で負けてしまったものの、それなりの手ごたえをつかんでいたなか、初戦で池田との対戦が決まりました。
池田は前年夏の甲子園で「やまびこ打線」で旋風を起こし、水野雄仁(かつひと)投手(現・巨人スカウト部長)は2年生でありながらクリーンナップを打つなど、注目を浴びていました。私は自分たちがどこまでやれるのか楽しみでしたが、結果は0対11の大敗でした。
池田に大敗してから、「パワーを身につけなければ甲子園では勝てない」ということを思い知り、帝京でもウエイトトレーニングを積極的に取り入れることにしました。
けれども私には、この分野の知識はまったくありません。そうかと言って、自己流でやってしまったら選手の肉体をただ傷つけてしまうことにもなりかねない。そう考えた私は、ウエイトトレーニングの知識が豊富なトレーニングコーチに、週2回、選手を指導してもらうことにしました。
するとはじめは、非常に軽い重さのバーベルを使って教えているのです。ウエイトトレーニングをするとなると、素人考えでは「重いおもりを使って持ち上げることで効果が得られる」などと考えがちですが、それとは真逆の方向の指導をしていました。
不思議に思った私は、そのコーチに質問すると、こんな答えが返ってきました。
「彼らはウエイトトレーニングをはじめたばかりですから、まずは持ち上げるときの『正しい姿勢』を学んでもらおうと考えていたのです」
今では当たり前のことかもしれませんが、当時の私にしてみればまったく思いつきもしないことでした。たとえば重いバーベルを持ち上げようとするために、背中を丸めたままトレーニングを行なってしまうと、本来つくべきではない箇所に筋肉がついてしまいます。それでは本来得られるはずのウエイトトレーニングの効果が得られなくなってしまうのです。
そこでトレーニングコーチが最初に行なったのが、軽いバーベルを持ち上げることでした。正しい姿勢から正しい角度でバーベルを持ち上げる。こうすることで、ついていくべき箇所に筋肉がついていくようになるというわけです。