【間違いだらけ】昭和の「部活指導」をあざやかに回避した、帝京野球部の監督「絶対にやってはいけない」選手をつぶす指導法 (※写真はイメージです/PIXTA)

才能や素質のある部下に出会ったとき、能力を最大限発揮できるようにするために、上司はどう指導すればよいのでしょうか。本連載では帝京高等学校硬式野球部名誉監督の前田三夫氏が、著書である『いいところをどんどん伸ばす 帝京高校・前田流 「伸びしろ」の見つけ方・育て方』から、監督時代の経験に基づく指導者としての態度や接し方について解説します。

指導者が最もやってはいけない「誤った自己流の指導」

指導者が最もやってはいけないこと。それは「自己流の指導を貫いてしまうこと」です。どんな指導者もありとあらゆることに知識があればいいのですが、実際はそうではありません。たとえば「野球の技術指導はできるけれども、肉体強化の知識はそれほどでもない」ということは往々にしてあります。

ウエイトトレーニングのコーチから学んだこと

私自身もそうでした。1983年春のセンバツのことです。当時のチームは東京大会で優勝し、明治神宮大会こそ1回戦で負けてしまったものの、それなりの手ごたえをつかんでいたなか、初戦で池田との対戦が決まりました。

 

池田は前年夏の甲子園で「やまびこ打線」で旋風を起こし、水野雄仁(かつひと)投手(現・巨人スカウト部長)は2年生でありながらクリーンナップを打つなど、注目を浴びていました。私は自分たちがどこまでやれるのか楽しみでしたが、結果は0対11の大敗でした。

 

池田に大敗してから、「パワーを身につけなければ甲子園では勝てない」ということを思い知り、帝京でもウエイトトレーニングを積極的に取り入れることにしました。

 

けれども私には、この分野の知識はまったくありません。そうかと言って、自己流でやってしまったら選手の肉体をただ傷つけてしまうことにもなりかねない。そう考えた私は、ウエイトトレーニングの知識が豊富なトレーニングコーチに、週2回、選手を指導してもらうことにしました。

 

するとはじめは、非常に軽い重さのバーベルを使って教えているのです。ウエイトトレーニングをするとなると、素人考えでは「重いおもりを使って持ち上げることで効果が得られる」などと考えがちですが、それとは真逆の方向の指導をしていました。

 

不思議に思った私は、そのコーチに質問すると、こんな答えが返ってきました。

 

「彼らはウエイトトレーニングをはじめたばかりですから、まずは持ち上げるときの『正しい姿勢』を学んでもらおうと考えていたのです」

 

今では当たり前のことかもしれませんが、当時の私にしてみればまったく思いつきもしないことでした。たとえば重いバーベルを持ち上げようとするために、背中を丸めたままトレーニングを行なってしまうと、本来つくべきではない箇所に筋肉がついてしまいます。それでは本来得られるはずのウエイトトレーニングの効果が得られなくなってしまうのです。

 

そこでトレーニングコーチが最初に行なったのが、軽いバーベルを持ち上げることでした。正しい姿勢から正しい角度でバーベルを持ち上げる。こうすることで、ついていくべき箇所に筋肉がついていくようになるというわけです。

あなたにオススメのセミナー

    帝京高等学校硬式野球部 名誉監督

    帝京高等学校硬式野球部名誉監督。千葉県袖ケ浦市出身、木更津中央高等学校(現・木更津総合高等学校)・帝京大学卒業。木更津中央高等学校時代は三塁手として活躍するも甲子園の出場経験はなし。大学時代は4年の秋に三塁ベースコーチとしてグラウンドに立っただけで選手としては公式戦出場なし。練習を手伝っていた縁で1972年帝京大学卒業と同時に帝京高校野球部監督に就任。1978年春の選抜高校野球で甲子園初出場を果たし、1980年春は伊東昭光投手を擁し準優勝。以後、練習場である校庭が(こちらも強豪となる)サッカー部と共用という恵まれない環境に長らくありながら、89年夏、92年春、95年夏と全国優勝3度の強豪チームへと育て上げた。同校野球部は高校野球ファンや国内メディアから「東の横綱」と呼ばれるほどの甲子園強豪校となる。教え子となるOBに伊東昭光(元・ヤクルト)、芝草宇宙(元・日本ハム-ソフトバンクなど)、吉岡雄二(元・巨人-近鉄-楽天など)、三澤興一(元・巨人-近鉄-ヤクルトなど)、森本稀哲(元・日本ハム-DeNA-西武)、中村晃(現・ソフトバンク)、杉谷拳士(現・日本ハム)、山﨑康晃(現・DeNA)、原口文仁(現・阪神)、松本剛(現・日本ハム)、清水昇(現・ヤクルト)、タレントの石橋貴明(お笑いコンビ・とんねるず)など多数。2021年8月30日、監督を退任。現在は名誉監督としてチームを支え続けている。

    写真:上野裕二

    著者紹介

    連載甲子園・全国制覇に3度導いた帝京高校・前田流 「伸びしろ」の見つけ方・育て方

    ※ 本連載は、前田三夫氏の著書『いいところをどんどん伸ばす 帝京高校・前田流 「伸びしろ」の見つけ方・育て方』(日本実業出版社)から一部を抜粋し、再構成したものです

    いいところをどんどん伸ばす 帝京高校・前田流 「伸びしろ」の見つけ方・育て方

    いいところをどんどん伸ばす 帝京高校・前田流 「伸びしろ」の見つけ方・育て方

    前田 三夫

    日本実業出版社

    ◎全国制覇3回、甲子園通算51勝(夏30勝、春21勝) 希代の名将がはじめて明かす 最大限の力を引き出す最適な努力 甲子園の名将として知られ、数多くのプロ野球選手を輩出してきた帝京高校・前田三夫名誉監督。 監督が語る「…

    メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

    登録していただいた方の中から
    毎日抽選で1名様に人気書籍をプレゼント!
    TOPへ