毎月25万円の年金と3,000万円の貯蓄で、ささやかながらも充実した老後を過ごしていた田中さん夫妻。しかし、ギャンブル依存症の夫から逃れるように一人娘が3歳の孫を連れて実家に戻ってきたことで、平穏な日々は一変します。わずか半年で300万円もの貯蓄が目減りし、途方に暮れる夫妻の苦悩とは。今回は、具体的な事例をもとに「想定外の老後」問題とその解決策を、FPの三原由紀氏が解説します。

これから一生、娘と孫のために生きる人生なのか…年金月25万円と貯金3,000万円で静かに暮らす60代夫婦、慎ましくも幸せな老後が消え去ったワケ【FPの助言】
誠実な働きで報われた定年後生活が一転
田中親雄さん(仮名・68歳)は中堅電機メーカー勤めで58歳に役職定年を迎えるも、長年の功績が認められ、同期の中でも高待遇の年収500万円で65歳になるまで勤め上げました。
妻の葉子さん(仮名・66歳)は専業主婦として家庭を支えてきました。二人三脚で築いた3,000万円の貯蓄は、同世代・同年収帯の平均貯蓄額1,630万円(2023年/金融広報中央委員会調査)を上回り、合わせて月25万円の年金で、質素ながらも充実した老後を過ごしていました。
週1回の日帰り温泉地巡りは、近場で交通費を抑えながらも、夫妻の大切なリフレッシュタイム。地域のボランティア活動では公民館での子ども向け将棋教室の講師を務め、家庭菜園では季節の野菜作りに精を出す。
「これまでの人生、仕事一筋でしたからね。やっと自分たちの時間を楽しめるようになったんです」と、親雄さんは晴れやかな表情を見せます。
ところが、平穏な日々は長くは続きませんでした。ある日、一人娘の美香さん(仮名・38歳)が3歳の息子・健太くん(仮名)を連れて突然帰ってきたのです。その理由は、夫のギャンブル依存症でした。
決定的だったのは、最愛の息子が初参加するリトミック発表会。夫は「後で合流する」と約束しながら、パチンコでの大当たりに興じて大幅に遅刻。
さらに、美香さんへの経済的虐待も深刻化していました。生活費を渡すのを渋るだけでなく、両親から贈られた30万円のブランドバッグや大切にしていた貴金属類がギャンブルの資金源として持ち去られていたのです。
「夜中に物音がして目が覚めたら、夫が私の持ち物を物色している場面に遭遇して…もう限界でした」と美香さんは当時を振り返ります。
夫の実家に相談しても「あいつはそういう奴だから」と取り合ってもらえず、美香さんは泣く泣く実家への帰還を決意しました。
深刻化する「シングルマザー問題」と養育費の現実
厚生労働省の「全国ひとり親世帯等調査(2021年度)」によると、母子世帯の養育費受給率はわずか28.1%。2011年の民法改正で離婚時の養育費取り決めが明文化されたにもかかわらず、実際に取り決めをした母子世帯は46.7%にとどまります。
その背景には「相手と関わりたくない」(34.4%)という心理的要因に加え、「相手に支払う意思がない」(15.4%)、「支払う能力がない」(14.6%)という現実的な問題が存在します。美香さんもまた、この現状に直面している一人です。