二世帯住宅「2階の姉」「1階の妹」となったワケ
今回の相談者は、50代会社員の佐藤さんです。先日亡くなった父親の相続の件で相談したいということで、筆者のもとを訪れました。
佐藤さんは2人姉妹の長女です。佐藤さんが結婚した数年後、両親は古い自宅を壊し、佐藤さん家族と暮らす二世帯住宅を新築しました。
2階に佐藤さん夫婦と子ども2人、1階に佐藤さんの両親という6人で長く暮らしてきましたが、その後は佐藤さんの子どもたちが大学進学で家を出ました。その後しばらくして母親が病気で亡くなりました。1人になった父親も高齢で体調を崩しがちとなったため、近居だった佐藤さんの妹夫婦が父親と同居し、姉妹で面倒を見ることにしました。
「私は仕事が忙しく、父親のケアが行き届かないため困っていたら、妹夫婦が父との同居を申し出てくれたのです。妹は専業主婦なので平日も動けるため、本当に助かりました…」
遺産を分割するには、自宅不動産を売却するしか…
佐藤さんの父親は、妹夫婦のおかげで安心して日々を過ごすことができ、多忙な佐藤さん夫婦も、妹夫婦のおかげでこれまで通り働くことができました。それぞれの家族関係もよく、いいバランスを保ったまま、しばらく平穏な生活が続きましたが、それから年月が経過し、父親が亡くなりました。
「父は〈遺言書を書いておくからな〉と常々いっていたのですが、いざ亡くなって調べてみると、なにも残していませんでした…」
佐藤さんは、遺産は姉妹で等分に分けたいと考えており、それは妹も同意見だといいます。父親の遺産は、姉妹が暮らす二世帯住宅と、3,000万円ほどの預金です。預貯金を半分にすることはすぐに双方合意しました。
「困っているのは二世帯住宅のほうなのです。建物は築30年ぐらいなので、まだしばらくは住めると思います。土地は50坪ぐらいあるのですが、道路に対して奥行きのある形状で、ふたつに分けると細長くなるため、いまの大きさの家は建ちません」
不動産の評価は6,000万円程度となり、現金の約2倍です。「不動産もしくは現金」という分け方では、金額的にアンバランスになってしまいます。
売りたい姉、住み続けたい妹で「意見は真っ二つ」
「現金を等分することが決まりましたが、実家も同じように、売って妹と2等分しようと思ったのです。ですが…」
佐藤さんと妹の希望には、大きな乖離があることが判明しました。夫が定年となった佐藤さんは、庭の手入れがいらないマンションに住み替えたいと考えています。ところが妹は、まだ実家で暮らしたいといいます。
「私たち夫婦は、すぐに実家を手放して、新しいマンションに住み替えたいのです。でも妹は、1年や2年での売却なんて考えられない、5年でもどうかと思う…、といっていまして」
不動産の売却は、相続人2人の合意がないと進みません。なにより、自宅に暮らしている妹家族が引っ越ししない限り売れません。いずれにしろ合意が必要なのです。
売却スケジュールを決めた「合意書」を作成
筆者と提携先の弁護士は、遺産分割協議書を作成時に、合意書も作成することをお勧めしました。売却して財産を分ける期限を決めておくというものです。
本来なら、相続税の申告と並行して遺産を分割するのが一般的なスケジュールですが、すぐに分けられない状況にあることから、約束事を書類にし、それを目安に進めていくという方法です。
仮に、父親亡きあとも二世帯で仲良く暮らせば問題はないかといえば、そうではありません。建物の老朽化に伴い、そのうちいずれ同じ問題が生じてきます。
筆者と弁護士は、佐藤さんと妹双方の意見の間を取って、税金の特例が生かせる〈相続してから3年〉を目安に売却されることをお勧めしました。
「ありがとうございます。妹夫婦とよく話し合ってみます」
現在はまだ、話し合いは継続中ですが、もともと関係の良かった姉妹であることから、いい着地点が探せるのではないかと考えています。
※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。
曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。