(※写真はイメージです/PIXTA)

グローバルな金融資本は、平和であろうとなかろうと、さらに悲惨な戦争が起きても、それらをすべて強欲実現のチャンスに変えています。カネ儲けのためにも、西側諸国はロシアを潰すようなことはしないでしょう。ジャーナリストの田村秀男氏が著書『日本経済は再生できるか 「豊かな暮らし」を取り戻す最後の処方箋』(ワニブックスPLUS新書)で解説します。

世界の指導者が避けたい唯一の共通点

ロシアとの軍事衝突を避けたい西側がプーチンの野望を阻止するために、今残されている有力策は、天然ガス決済銀行ガスプロムバンクを含む、全ロシア金融機関への全面的なSWIFTからの排除です。そうなると、大半の輸出決済が不能になり、ルーブル暴落と高インフレが引き起こされると、「CIVITTA」は予想しています。

 

ただし、西側が受ける返り血も夥しくなります。即ち、欧州を中心とするエネルギーの不足と価格が高騰して、世界経済混乱に拍車をかけることになるでしょう。

 

ロシアが全面的金融制裁に報復するため、核の脅しをエスカレートさせると、西側社会はパニックに陥る恐れもあるでしょう。それ以前に、ロシアは欧州向け天然ガスパイプラインの元栓を閉めかねない動きにでています。厳しい冬場にガス供給が止まれば、欧州は大混乱に陥ることでしょう。

 

「制裁疲れ」はロシアにおいてもひどくなるでしょう。戦争が長引けば長引くほど、経済制裁の影響もあってロシア国民の生活は困窮していきます。それは、親ロシアと見なされている周辺国にも波及していくことになります。

 

しかし、国民や周辺国の不満が高じていけば、プーチン失脚につながる可能性が高いとか、プーチン後は権威主義を継続することは難しいので次の指導者は民主主義政治の基本精神を尊重するだろう、というのは希望的観測にすぎません。トクヴィルの予言が示唆したように、社会の全権を剣を持ったひとりの男に集中させ、周辺国を隷従させるのが変わらぬ大国ロシアの姿なのです。

 

現実的には、ウクライナ侵略戦争、対ロシア制裁そして米追加利上げと、長期化する情勢下、中国、ロシア発の世界経済不安もまた終結のめどは立ちそうにありません。基軸通貨ドル覇権のもとでは、金融制裁でロシアを屈服させることはできず、日本をふくむグローバル世界全体の経済不安は長期化します。またドル金融支配の鬼子とも言うべき投機資金の暴走も頻発し、エネルギー危機、食糧危機の常態化の恐れもあるのです。

 

グローバリゼーションのもとで自由、人権尊重と民主主義という「普遍的価値を共有」すれば、戦争は起きず、普遍的価値を無視する勢力は金融制裁で封じ込められるというのも、楽観的すぎるでしょう。

 

そもそもグローバルな金融勢力は、平和であろうとなかろうと、さらに悲惨な戦争が起きても、それらをすべて強欲実現のチャンスに変えるのです。

 

〝カネ儲け〞のためにも、西側諸国はロシアを徹底的に潰すようなことはしないでしょう。2022年5月31日付の『ニューヨーク・タイムズ』紙(電子版)で米国のバイデン大統領は、ウクライナに「より高度なロケットシステムと弾薬を提供する」ことを明らかにしました。さらにバイデンは、兵器の提供は「(ロシアの)さらなる侵略を抑止し、自衛手段を備えて、民主的で独立したウクライナを見たいからだ」と述べています。

 

このとき米国が提供を決めた高軌道ロケット砲システム(HIMARS)は、使用する弾薬によっては射程が最大300キロにもなるものです。ウクライナ国内から発射しても、ロシア領内に届きます。ロシア領内をウクライナが攻撃するとなれば、プーチンは黙っていません。戦局を有利にするために、プーチンが核を使用することが現実になってしまいかねません。

 

核が使われれば、ロシアをめぐる国際関係は、間違いなく最悪の状態になります。戦争は拡大し、第三次世界大戦の悪夢が現実になりかねません。それはバイデンもプーチンも習近平も、欧州、日本のすべての指導者が避けたい唯一の共通点のはずです。

 

米露が核対決を避け、西側諸国が支援してウクライナだけがロシアと戦う状況を続けていれば、西側の兵器産業は潤います。経済安全保障の名のもとに半導体などハイテク資本に国家資金が投入され、新しい経済成長の軸になり得ます。それもまた金融資本の収益機会になります。

 

戦争が長引けば長引くほどウクライナもロシアも荒廃し、いずれ戦争を継続できなくなってしまうでしょう。しかしそうなれば、強欲資本にとっての投資機会が到来します。国破れて投資あり、というのがグローバリズムの現代世界なのです。

 

バイデンが高軌道ロケット砲システムを提供するに当たって、わざわざウクライナに抑止と自衛のためだけの使用を約束させるようなことを口にしたのが、当初、私には不思議でした。しかし考えてみると、「ロシア領内は攻撃させないから核は使うな」というプーチンに対する念押しだったわけです。戦争を最悪の状況にしないためだけでなく、ロシアが再投資の場になることも意図していたように思えます。

 

ソ連崩壊後、国がバラバラになってしまったロシアは、格好の投資の場になりました。そういう隙に付け込んで儲けるのが、強欲資本主義です。ウクライナ侵攻で疲弊してしまったロシアでも、西側諸国が「真面目に民主化しなさい」とか何とか言って乗り込んでいってどーんと投資して大儲けする。ソ連崩壊のときと同じことが起きる気がします。まさに、歴史は繰り返す、です。

 

ソ連崩壊直前からロシアに進出していたマクドナルドをはじめとする米資本や国際石油資本、穀物メジャーが崩壊後に投資を増やして事業を急拡大し、大儲けしています。同じことが、ウクライナとの戦争が終わった後のロシアでも起きるはずです。

 

田村 秀男
産経新聞特別記者、編集委員兼論説委員

 

 

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本連載は田村秀男氏の著書『日本経済は再生できるか 「豊かな暮らし」を取り戻す最後の処方箋』(ワニブックスPLUS新書)より一部を抜粋し、再編集したものです。

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