(※写真はイメージです/PIXTA)

環境的要因と遺伝的要因から最適な治療を導き、医療の質を向上させる新たな概念である「ペイシェント・ベイスド・メディスン(PBM)」は、従来の標準化された治療方針では見落とされてしまう、遺伝情報や患者個々の出身地や生活歴などの背景を考慮した治療を行うものです。東大病院に勤務後、現在は年間10万人を超す外来患者が殺到する眼科病院の理事を務める眼科医・宮田和典氏が、次世代医療の要と成り得る「ペイシェント・ベイスド・メディスン(PBM)」について詳しく解説します。

従来のガイドラインには地域性や民族性は考慮されず

今日の医療において、忘れてはならないのは、広く日本中で治療の拠り所とするべく定められたガイドラインには「地域特性」や「民族性」などは十分に考慮されていないということです。

 

言い方を変えれば、標準化されて、地域特性などの個別背景を排除した、客観的なデータをベースにしたものがガイドラインです。エビデンスに基づいて全国どこでも同じレベルの治療を行うことが目的のため、地域特性などの要素は入っていないのです。

 

このように、治療方針を決める際に、徹底してエビデンスをもとに決めていくEvidence-based Medicine:EBM(以下、EBM)の考え方は、医療の質を大きく向上させました。私自身はEBMの考え方が世に出てくる前から医師として診療に携わっていますが、実際にEBMが世に浸透していく過程を見てきて、その意義を実感しています。

 

一方で患者の属する地域や環境などの要因を、治療の際に一つの視点としてもっておくことは重要です。

 

なぜなら、ガイドラインは診断治療の教科書としてすべての治療の基本になりますが、世の中の出来事は教科書通りにいくことばかりではないからです。各種のガイドラインを大前提として踏まえたうえで、目の前の患者にはどのような要素があり、それが病気にどのように影響を及ぼしているか――を常に考える視点が必要だと私は考えています。

 

そのような視点をもってこそ、より一層、患者個人の病気の本質に迫ることができるからです。

全体ではなく個々の患者のエビデンスをもとに考えるPatient-based Medicineとは

本連載の第1回で詳しく解説した出来事である、私が東京の病院から宮崎県の病院に移り、翼状片という眼病の発症が宮崎県では圧倒的に多いことに気づいてから、瞳の感染症やぶどう膜炎には、地域間で明らかな差異があることが判明しました。ここで言うPatient-based Medicine:PBM(以下、PBM)とは、この出来事を踏まえ私が研究・考察を重ねていくなかで導き出した、私自身の考え方です。

 

つまり、PBMは、EBM、Evidence-based Medicineに、個々の患者によって異なる民族、職業、食文化などの背景であるPatient individual factor を融合させたものです。

 

ガイドラインや各種の診療の手引きをベースとして、さらにそのうえに自分の患者から導き出したエビデンスを加えることで、より精度の高い治療を展開できると私は考えています。

 

患者自身を構成する要素としては、実際には年齢や職業、人生観、経済状態、食文化、生活様式などさまざまなものがあります。本来、PBMとは、そのすべてを考慮して行われる患者主体の医療のことを示します。

 

私は、そのような要素の中から、人生観・経済状態などはひとまず置いて、民族や職業、食文化など客観的なデータとして測ることができるものから患者のエビデンスを構築し、診断・治療にあたることをPBMと呼んでいます。

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※ 本連載は、宮田和典氏の著書『診断治療の質を上げる ペイシェント・ベイスド・メディスン』(幻冬舎メディアコンサルティング)から一部を抜粋し、再構成したものです

診断治療の質を上げる ペイシェント・ベイスド・メディスン

診断治療の質を上げる ペイシェント・ベイスド・メディスン

宮田 和典

幻冬舎メディアコンサルティング

患者の出身地や食生活によって、かかりやすい病気、重症度が変わる――。 環境的要因と遺伝的要因から最適な治療を導く。医療の質を向上させる新たな概念「PBM」とは? 1990年代にカナダで提唱された「エビデンス・ベイスド…

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