(※写真はイメージです/PIXTA)

近年、薬が効かない感染症による死者が増加傾向にあると言われています。2014年に、イギリスの調査チームからは「現状のままで何も対策をしなければ、2050年には薬剤耐性菌による死者が、現在の年間70万人から1,000万人以上になる」という驚きの研究結果が報告されています。東大病院に勤務後、現在は年間10万人を超す外来患者を診療する眼科病院の理事を務める眼科医・宮田和典氏が、我々を脅かす菌の性質から、現状の対策について解説します。

菌を殺すペニシリンの発見によって数百万人の命が救われたが…

感染症の治療を行うなかで忘れてはならないのが、抗菌薬の使用と薬剤耐性菌の話です。

 

薬剤耐性菌とは簡単にいうと、病気を治すための薬が効かない菌のことです。細菌による感染症を治療するためには基本的に抗菌薬が使われますが、薬剤耐性菌には抗菌薬が効きません。そして、抗菌薬の効かない薬剤耐性菌が今、世界中で増えているのです。

 

最も古くからあり、よく知られている抗菌薬の一つにペニシリンがあります。このペニシリンは、1928年にイギリスの医者であるアレクサンダー・フレミングがアオカビから発見したといわれています。フレミングはのちにこの功績によってノーベル生理学・医学賞を受賞しています。

 

そして、ペニシリンに次いで古くからあるのが結核の薬として知られるストレプトマイシンです。ペニシリンやストレプトマイシンが発明されて以降も、次々に新しい抗菌薬が誕生し、これまで世界中で少なくとも数百種類の抗菌薬が開発されてきました。

 

ペニシリンの発見は、20世紀最大の発明の一つとされています。ペニシリンを始めとする抗菌薬が発明されるまでは、感染症によって多くの人類が命を落としてきたからです。

 

ペニシリンの発見によって救われた命は、数百万人では済まないかもしれません。

薬は使えば使うほど効かない菌が出現する

ところが近年、このような優れた薬である抗菌薬が効かない薬剤耐性菌が増えており、世界中で大きな問題となっています。

 

なぜ、薬剤耐性菌が出現するのかというと、細菌は生物であり自らが生き延びるために環境に合わせて自分自身を変化させているからです。細菌は自分自身にとっての脅威である抗菌薬から逃れるために、自分自身を変化させ続け、あの手この手で抗菌薬に対抗しようと試みているのです。

 

細菌が抗菌薬に対抗する方法はさまざまです。例えば細菌を覆う外膜を変化させて抗菌薬が細菌の中に入るのを妨げたり、抗菌薬が細菌に届く前に化学反応で分解してしまったりなどいくつもの方法があります。

 

薬剤耐性菌は、抗菌薬を長期間使い続ければ必ずといっていいほど出現します。抗菌薬を使えば使うほど、より多くの薬剤耐性菌が出現してしまうのです。

 

また、薬剤耐性菌の出現とセットで常在菌の減少が問題となります。

次ページ「常在菌の減少」という第2の問題

※ 本連載は、宮田和典氏の著書『診断治療の質を上げる ペイシェント・ベイスド・メディスン』(幻冬舎メディアコンサルティング)から一部を抜粋し、再構成したものです

診断治療の質を上げる ペイシェント・ベイスド・メディスン

診断治療の質を上げる ペイシェント・ベイスド・メディスン

宮田 和典

幻冬舎メディアコンサルティング

患者の出身地や食生活によって、かかりやすい病気、重症度が変わる――。 環境的要因と遺伝的要因から最適な治療を導く。医療の質を向上させる新たな概念「PBM」とは? 1990年代にカナダで提唱された「エビデンス・ベイスド…

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