激痛が起こる水疱性角膜症
皆さん、水疱性角膜症をご存知でしょうか。水疱性角膜症とは、角膜が濁る病気です。角膜が濁ってむくみ、視力が低下してしまいます。また角膜の表面に水ぶくれができて、水ぶくれが破れると激痛が起こります[図表1]。
この病気の治療法は基本的には角膜移植しかありません。しかし移植するには角膜バンクから角膜の提供を受けるなど、手術までにある程度の期間が必要であり、すぐに手術をすることはできません。そのため患者は移植を受けられるまでの間、激痛に耐えなければならないのです。
私たちは、この水疱性角膜症の痛みをクロスリンキングで軽減できないかと考えました。
クロスリンキングの角膜が硬くなる作用を応用することで、角膜のむくみが抑えられ、痛みが和らぐのではないかと考えたのです。
87歳・女性の症例。右眼に繰り返す痛みが…
症例を紹介します。
87歳の女性で、過去に他院で白内障の手術をした経験があった患者の例です。右眼に繰り返す痛みを感じ、私の病院を受診されました。
診察の結果、水疱性角膜症を発症していることが分かりました。
この患者は受診時点で右眼の視力が落ちていましたが、本人からは「年齢を考えると、視力が落ちるのはかまわない。ただ、痛いのだけはつらいからなんとかしてほしい」という訴えでした。
そこで痛みを取ることを目的に角膜移植をすることになり、移植の待機中に痛みを取るためにクロスリンキングを行いました。
するとクロスリンキングを行ってから1週間後から少しずつ角膜の中心が薄くなり、治療後1ヵ月から半年までその状態を保つことができたのです。
痛みについても治療後1週間後から軽くなり始め、フォローしていた半年後の時点まで痛みの軽減は保たれていました。痛みの強さや頻度を0~10のスコアで患者自身に評価してもらったところ、手術前の痛みの強さと頻度が5であったのに対して、手術後は0にまで軽減していました[図表2]。
この患者のケースでは、視力の回復は目的としておらず、痛みの軽減だけが目的で移植をする予定でした。ところがクロスリンキングによって痛みを軽減することができたため、移植手術をしなくても済むようになったのです。