(写真はイメージです/PIXTA)

環境的要因と遺伝的要因から最適な治療を導き、医療の質を向上させる新たな概念である「ペイシェント・ベイスド・メディスン(PBM)」は、従来の標準化された治療方針では見落とされてしまう、遺伝情報や患者個々の出身地や生活歴などの背景を考慮した治療を行うものです。年間10万人を超す外来患者が殺到する眼科医の宮田和典氏が、次世代医療の要と成り得る「ペイシェント・ベイスド・メディスン(PBM)」について詳しく解説します。

東京では15年で3件しか手術しなかった目の病気が、宮崎では1年で100件を超す?

1999年、私は長年勤めていた東京大学医学部附属病院眼科医局を離れ、故郷である宮崎県都城市に帰ってきました。父の病院を継ぐために、東大病院には非常勤講師として籍を残したまま、実家の病院の副院長に就任したのです。

 

そこで私を待っていたのは、待合室を埋め尽くす患者たちでした。その数およそ年間10万人、白内障の手術は3,000件を数えます。この地方で唯一眼科の救急医療を担い単科の眼科病院でありながら、外来から手術入院まで行う私の病院には、あらゆる眼の病気を持つ患者が大勢訪れていたのです。

 

休む間もなく、忙しい毎日を送っていたある日、ふと違和感を覚えました。私は、宮崎県に戻る前、東京で約15年間、眼科医として治療にあたってきました。

 

しかしどうも、東京にいた頃と宮崎に戻ってからでは、明らかに患者の様子が異なるのです。初めに気づいたのは、翼状片(よくじょうへん)という病気でした。翼状片というのは白目の部分(結膜)が黒目(角膜)に三角状に侵入してくる病気です。結膜が角膜に入り込んでくるため、進行すると、乱視が出て視力が低下します[図表1]。

 

[図表1]翼状片

 

この病気は私が東京で治療をしている15年間でたった3件しか手術をしたことがありませんでした。ですから私は翼状片を、一般的にそれほど多くない病気だと考えていました。

 

ところが宮崎に戻ってからは状況が一変しました。例えば、東京で15年間に3件しか手術しなかった私が、この病院では1年間で100件を超す手術を行ったのです。

 

また、一口に翼状片といっても、重症例や再発例が極めて多いのにも驚きました。東京ではほとんど遭遇したことのない翼状片が、宮崎県では非常に頻繁に起こっていて、しかも重症例や再発例が極めて多い。「いったいどういうことなのだろう?」というのが、最初の気づきでした。

眼科医の常識を覆す、独自調査による驚きの患者データ

「サルコイドーシス」「Vogt‒小柳‒原田病」「ベーチェット病」の3つの病気がぶどう膜炎を引き起こす大きな原因になっていることは、眼科の世界では広く知られている事柄です。

 

ところが南九州に位置する私の病院の患者を対象に行った調査では、これとはまったく異なる結果となったのです。

 

私の父である前院長と、前東京医科歯科大学眼科教授の望月學氏は、私の病院を受診するぶどう膜炎患者の多くの原因が不明であることをかねてから不思議に思っていました。そこでその原因不明の病気を調べ、ウイルスの一種であるHTLV‒1によるぶどう膜炎であることを突き止めたのです。

 

また、その後その頻度を調べるために私の病院の患者を対象とした大規模な調査を実施しました。1990~1999年にかけて、ぶどう膜炎の患者1,093例を対象に、どのような病気が原因となってぶどう膜炎を引き起こしているか、私の病院独自のデータを取りまとめました。

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※ 本連載は、宮田和典氏の著書『診断治療の質を上げる ペイシェント・ベイスド・メディスン』(幻冬舎メディアコンサルティング)から一部を抜粋し、再構成したものです。

診断治療の質を上げる ペイシェント・ベイスド・メディスン

診断治療の質を上げる ペイシェント・ベイスド・メディスン

宮田 和典

幻冬舎メディアコンサルティング

患者の出身地や食生活によって、かかりやすい病気、重症度が変わる――。 環境的要因と遺伝的要因から最適な治療を導く。医療の質を向上させる新たな概念「PBM」とは? 1990年代にカナダで提唱された「エビデンス・ベイスド…

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