世界が驚く奇跡の経済発展を遂げたが
■真珠湾攻撃から80年:日本は相変わらず国家戦略なき国家
2021年12月8日は、真珠湾攻撃から80年の日であった。
この80年で日本はいかなる変貌を遂げてきたのだろうか。先の大戦の敗戦により我が国は経済などあらゆる分野でどん底から出発せざるを得なかった。日本人は、その勤勉な国民性を発揮して世界が驚く奇跡の経済発展を遂げ、世界第二位の経済大国になった。
当時の日本人にはハングリー精神があったし、経済分野において米国に追いつき追い越せという勢いがあった。しかし、その目覚ましい経済発展のピークは1990年前後であり、1991年のバブルの崩壊以降は「失われた30年」と言われる停滞期に入り、そこから抜け出せていないまま現在に至っている。そして、世界における日本の存在感は右肩下がりの状況になっている。
一方、中国は日本の失われた30年を尻目に、目覚ましい経済発展を遂げ、いまや経済的にも軍事的にも米国と覇権争いをするまでに国力を増大させている。経済力と軍事力において中国は日本を抜き去り、その差は拡大している。
中国の現状には多くの問題が存在するが、米国に次ぐ世界第二位の国力をもった国家になったことは否定できないであろう。
この日中の違いは何なのか。
私は国家として戦略をもっているか否かの違いだと思っている。
中国の超限戦は邪道ではあるが、厳しい国際社会を生き延びていくひとつの戦略だと思う。しかし、日本には超限戦に匹敵するようなしたたかな国家戦略がない。
本文でもふれた書籍『超限戦』では、〈21世紀の戦争は、すべての境界と限度を超えた戦争で、これを超限戦と呼ぶ。この様な戦争であらゆる領域が戦場となりうる。すべての兵器と技術が組み合わされ、戦争と非戦争、軍事と非軍事、軍人と非軍人という境界がなくなる。〉との主張がなされている。
これは私が主張する全領域戦の考えと合致する。しかしここまでの厳しい認識を日本人がもっているとは思えない。
日本人は、「平和がノーマルで戦争がアブノーマルだ」と思っているが、世界的には「平和がアブノーマルで戦争がノーマルだ」と思っている人たちが決して少なくない。
日本の政治家は能天気に、日本の国是は「専守防衛」「敵に脅威を与えない防衛力の保持」「必要最小限の自衛力の行使」だと主張している。
しかし、『超限戦』では、
〈敵国に全く気づかれない状況下で、相手の金融市場を奇襲して、金融危機を起こした後、相手のコンピューターシステムに事前に潜ませておいたウイルスやハッカーの分隊が同時に敵のネットワークに攻撃を仕掛け、民間の電力網や交通管制網、金融取引ネット、電気通信網、マスメディア・ネットワークを全面的な麻痺状態に陥れ、社会の恐慌、街頭の騒乱、政府の危機を誘発させる。そして最後に大軍が国境を乗り越え、軍事手段の運用を逐次エスカレートさせて、敵に城下の盟の調印を迫る。〉
と主張しているのだ。
まずは、この日本と中国のギャップを認識し、全領域戦で戦いを仕かける相手に対していかに対処するかを真剣に検討すべきだ。
渡部 悦和
前・富士通システム統合研究所安全保障研究所長
元ハーバード大学アジアセンター・シニアフェロー
元陸上自衛隊東部方面総監
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