(※写真はイメージです/PIXTA)

かつて日本人にはハングリー精神があり、経済分野において米国に追いつき追い越せという勢いがありました。しかし、その目覚ましい経済発展のピークは1990年前後までです。元・陸上自衛隊東部方面総監の渡部悦和氏が著書『日本はすでに戦時下にある すべての領域が戦場になる「全領域戦」のリアル』(ワニプラス)で解説します。

台湾の隅々にまで中国の影響力は及ぶ

中国が核心的利益と主張する台湾に対しても中国の全領域戦がおこなわれている。習近平主席は2019年1月の演説で、①解放軍による軍事的圧力、②対外的な台湾の離隔、③浸透工作と政治体制の転覆、④中央統一戦線工作部との連携(=統一戦線工作の実施)、⑤サイバー活動と偽情報の拡大、という5つの対台湾工作を重視するとした。

 

これらについて少し解説を加える。

 

①解放軍の台湾に対する圧力に関しては、大量の解放軍機や艦艇を頻繁に台湾周辺で活動させている。これは台湾軍(とくにパイロット)に対する疲弊戦(台湾軍を疲弊させてしまう戦い)であると同時に、台湾国民に対する心理戦(圧倒的な中国の軍事力に対する無力感を醸成する戦い)でもある。

 

②対外的な台湾の離隔については、台湾と外交関係にある諸国に圧力をかけて外交関係を断絶させること、国連やWHOなど国際機関への台湾の加盟を拒否することにより実現している。

 

③浸透工作と政治体制の転覆に関しては、あらゆる分野への浸透工作をおこなうとともに、蔡英文政権の転覆を狙った工作を実施している。

 

政治の分野では国民党が親中国政党であり、中国の立場を代弁している。2024年に台湾の総統選挙があるが、そこで国民党の候補が勝利すると、中国への併合がやりやすくなるだろう。

 

経済界も中国本土に進出している企業が多く、中国の飴と鞭の工作の影響を受けやすい。最近、中国政府は中国本土に進出している台湾企業・遠東集団に対して約16億円の罰金を科した。

 

理由は、環境や土地使用に関して違反があったというものだが、本当の理由は遠東集団が台湾与党・民主進歩党の大口献金者であったことだ。

 

その一方で、台湾企業や個人に経済的な優遇や中国公民と同等の権利を与えることと引き換えに、親中国陣営に囲いこんでいる。

 

メディアの分野でも親中国系メディアが存在し、中国の代弁者となっている。また、台湾軍にさえ中国のスパイが入りこんでいるのは公然の事実だ。このように台湾社会の隅々にまで中国の影響力は及んでいる。

 

④統一戦線工作については、台湾に22の親中組織と親中政党(国民党)が存在し、その多くが犯罪組織に関係していることが確認されている。これは、人脈をあらゆる分野(政治、経済、メディア、企業、軍隊、警察など)に拡大するための手段だという。

 

⑤サイバー戦については、中国本土の武漢所在で台湾や南アジアを担当する解放軍の戦略支援部隊の技術偵察局の第六局には61726部隊が存在し、この部隊は台湾に対するサイバー攻撃の主力である。台湾の国防報告書によると、台湾はつねにサイバー攻撃を受けており、最近の2年間で14億回もの攻撃があり、しかもその数は増加し続けているという。

 

また、台湾行政院情報通信安全局長は2021年11月10日の議会で、一日に約500万件のサイバー攻撃やスキャン(サーバーの弱点を特定する試み)を受けていると証言している。いずれにしても膨大な数のサイバー攻撃を中国から受けていることは明らかだ。

 

2020年1月11日におこなわれた台湾総統選の際には、中国は台湾に対する大規模なサイバー攻撃を仕かけたという。さらに、サイバー空間を利用した偽情報の拡散による影響工作や、スパイ活動もおこなっている。

 

以上のように、つねに中国本土からの工作を受けている台湾は、米国などの民主主義諸国の応援を得ながら中国の工作に耐えている。

 

日本としては、台湾の状況を注視しながら、そこから多くの教訓を得て、中国の対日工作を撃退する資とすべきであろう。

 

次ページ世界が驚く奇跡の経済発展を遂げたが

本連載は渡部悦和氏の著書『日本はすでに戦時下にある すべての領域が戦場になる「全領域戦」のリアル』(ワニプラス)より一部を抜粋し、再編集したものです。

日本はすでに戦時下にある

日本はすでに戦時下にある

渡部 悦和

ワニブックス

中国、ロシア、北朝鮮といった民主主義陣営の国家と対立する独愛的な国家に囲まれる日本の安全保障をめぐる状況は、かつてないほどに厳しいものになっている。 そして、日本人が平和だと思っている今この時点でも、この国では…

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