「極端な軍事アレルギーが日本の国力を低下させている」と言えるワケ (※写真はイメージです/PIXTA)

日本の国力は右肩下がりです。人口は少子高齢化し、かつて世界第二位だったGDPはいまや中国に抜かれて第三位になり、やがてインドにも抜かれて第四位になるでしょう。元・陸上自衛隊東部方面総監の渡部悦和氏が著書『日本はすでに戦時下にある すべての領域が戦場になる「全領域戦」のリアル』(ワニプラス)で解説します。

強靱な国家・日本を目指せ

中国は統一戦線工作の国家であり、「超限思考」の国家である。『超限戦』の本質は〈目的のためには手段を選ばない。制限を加えず、あらゆる可能な手段を採用して目的を達成する。〉ことを徹底的に主張していることだ。

 

『超限戦』の主張は、突き詰めれば、国家もマフィアやテロリストたちと同じ論理で行動しなさいということだ。しかし、国家が『超限戦』の教えを実践することにはリスクが大きすぎ、実行すべきではない。一方、中国には民主主義国家のような倫理や法の限界などない。超限戦は日本をはじめとする民主主義国家がしてはいけない戦いなのだ。

 

「超限思考」の国家に対抗するためには、日本人は賢くなければいけないし、強くなければいけない。以下、超限戦に対抗しうる賢くて強靱な日本の構築にむけた議論をしてみたい。まず、国力の議論からだ。

 

■国力の方程式

 

私は、日本が強靱な国家、つまり「強くてしなやかな国家」になってもらいたいと思っている。「強靱」という言葉には「強さ」と「しなやかさ」の両方が含まれている。強さの源はパワーであり、国家のパワーを国力という。厳しい国際政治において、国力は不可避なテーマである。

 

●レイ・クラインの方程式

 

国際政治においては、大別するとリアリズム(現実主義)とリベラリズム(国際協調主義)というふたつの考え方がある。私は、リアリズムに立っている。つまり、各国の勢力均衡(バランス・オブ・パワー)を重視する立場だ。

 

なぜ私は国力やバランス・オブ・パワーを強調するのか。我が国の周辺には世界有数の国力をもった国々、米国、中国、ロシアが存在するからだ。これらの国々は、我が国のあらゆる分野に影響を及ぼしている。とくに中国は統一戦線工作、サイバー攻撃、影響工作などで日本を目にみえないやり方で侵略し、我が国の国力を劣化させようとしている。この原稿においてはいま一度、国力(パワー)の重要性を強調したいと思う。

 

情報分析の第一人者で、CIA分析官であったレイ・クラインは、次のような国力の方程式を使って、数値による国力の計算を試みている。

 

P=(C+E+M)×(S+W)
(注:P=国力、C=人口+領土、E=経済力、M=軍事力、S=国家戦略目標、W=国家意思)

 

国力の要素として人口、領土、経済力、軍事力は不可欠だが、国力の骨幹は経済力と軍事力である。強い経済力や強い軍事力をもたずして強い国力を達成することはできない。

 

また、「強い経済力なくして、強い軍事力はない」と言うこともできる。戦後の日本では、「軍事は悪だ」という主張が幅をきかせてきたが、あまりにも視野の狭い考え方だ。軍事は国際政治において国力を形成する不可欠な要素であり、軍事力は国家・国民を外敵から防衛する不可欠な能力だ。

 

クラインの式で重要なのは国家戦略目標と国家意思という無形の要素が入っている点だ。日本には、このふたつの要素が欠けている。明確な国家戦略目標がなく、国家意思がなければ国力も生まれない。

 

中国が急速に国力をつけてきているが、それは国家戦略目標と国家意思を明らかにしているからだ。習近平国家主席が「中華民族の偉大な復興」をスローガンに、建国100周年となる2049年を目処に「社会主義現代化強国」「総合的な国力と影響力で(国際社会を)主導する国家」を建設すると宣言している。

 

「2049年までに中国は世界一になる」という強い国家の意思を打ち出したわけだ。この強烈な国家意思があるからこそ様々な政策を実行できているし、その結果として今日の中国がある。

 

また、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の例も参考になる。ロシアは、米国と匹敵する核戦力を中核とする世界有数の軍事大国である。しかし、その経済力は、GDPでは世界11位で10位の韓国に負けている。AI、ICT(情報通信技術)、半導体などの産業も貧弱だ。

 

しかし、ロシアの世界における存在感は日本よりもある。その理由は、「ロシアの復活」を目指すプーチン大統領に国家指導者としての豪胆さがあるからだ。クリミア併合、ウクライナ侵攻、シリア内戦への介入など断固とした決断がロシアを実力以上に大きくみせている。

 

国力における国家意思は重要な要素であるが、それを体現するのが指導者の豪胆さだと思う。

 

クラインの計算式にも表現されているが、国力の基盤は経済力と軍事力だ。このふたつの力を背景として、政治や外交をおこなうのが国際的な常識である。

 

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    前・富士通システム統合研究所安全保障研究所長
    元ハーバード大学アジアセンター・シニアフェロー
    元陸上自衛隊東部方面総監

    1978(昭和53)年、東京大学卒業後、陸上自衛隊入隊。その後、外務省安全保障課出向、ドイツ連邦軍指揮幕僚大学留学、函館駐屯地司令、東京地方協力本部長、防衛研究所副所長、陸上幕僚監部装備部長、第2師団長、陸上幕僚副長を経て2011(平成23)年に東部方面総監。2013年退職。著書に『米中戦争―そのとき日本は』(講談社現代新書)、『中国人民解放軍の全貌』(扶桑社新書)、『日本の有事』(ワニブックス【PLUS】新書)、共著に『台湾有事と日本の安全保障』『現代戦争論―超「超限戦」』(ともにワニブックス【PLUS】新書)がある。

    著者紹介

    連載日本はあらゆる領域が戦場になる戦時下である

    本連載は渡部悦和氏の著書『日本はすでに戦時下にある すべての領域が戦場になる「全領域戦」のリアル』(ワニプラス)より一部を抜粋し、再編集したものです。

    日本はすでに戦時下にある

    日本はすでに戦時下にある

    渡部 悦和

    ワニブックス

    中国、ロシア、北朝鮮といった民主主義陣営の国家と対立する独愛的な国家に囲まれる日本の安全保障をめぐる状況は、かつてないほどに厳しいものになっている。 そして、日本人が平和だと思っている今この時点でも、この国では…

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