「一週間でいいから未亡人をしたい」夫より先に死ねない理由 (※写真はイメージです/PIXTA)

妻に先立たれ元気をなくす男性が多いといいます。それは家事を妻に任せっきりだったことや地域との交流がなくて孤立してしまうという問題が指摘されています。老人医療に詳しい精神科医の和田秀樹氏が著書『80歳の超え方 老いは怖くないが、面倒くさい』(廣済堂出版)で解説します。

男性は精神的な自立ができていない

■妻に先立たれ元気をなくす男性、夫に先立たれ元気になる女性


 
65歳以上の単独世帯を男女で比較すると、全体では女性が約65%、男性約35%と、女性のほうが圧倒的に多いです。

 

女性は寿命が長く、妻の年齢が夫より下という夫婦も多いので、夫が先に逝き、妻がひとり暮らしになる流れが普通かもしれません。

 

ただ、当たり前の流ればかりではありません。妻のほうが病気で先に死ぬという事例も多くあります。

 

よく女性の患者さんが言うのは、「夫をおいて先に死ねない」「夫をおいて私が先にボケるわけにはいかない」といったことです。女性たちは、夫は家事能力がないことを心配しているわけです。

 

高齢者夫婦の片割れが亡くなったときに元気がなくなるのは、男性のほうだといわれています。その原因として、家事を妻に任せっきりだったので、ひとりで暮らすスキルがないことや、男性は地域との交流がなくて孤立してしまうという問題が指摘されています。

 

男性が妻に依存しているのは家事だけではありません。精神的にも女性に依存している人が多くいます。妻に対して亭主関白に振る舞っている人こそ、依存度が高いかもしれません。

 

外ではいい人でも家の中で威張っていた人、会社にも地域にも心許せる友人がいなかったので愚痴のはけ口は妻だった人。そのほかにも、いい意味で妻がいちばんの理解者だったという男性もけっこう多いように思われます。

 

息子と夫が仲たがいしていても、「お父さんは、本当はあなたのことが心配なのよ」と、夫の気持ちを代弁してくれるのも妻です。

 

そんなありがたい妻ばかりではないと言われそうですが、一心同体でお互いを理解し合っている夫婦は多くいます。そうして精神的な依存は実は男性のほうが大きいようです。

 

文芸評論家の江藤淳さんは「脳梗塞の発作に遭いし以来の江藤淳は、形骸に過ぎず、自ら処決して形骸を断ずる所以なり」という遺書を書いて自殺しました。一部では前年に妻を病気で亡くしてから気力がなくなっていったという話もあり、うつ状態があったかもしれません。もし、妻が傍らにいたら、脳梗塞のリハビリだと文章を書き続けてがんばったかもしれません。

 

死の真相は誰にもわかりませんが、脳梗塞などの病気をひとりでリハビリしていくのは大変です。それが男性だとより孤独に見えてしまうのは、まだまだ男性は精神的な自立ができていないように見えるからです。

 

たしかに妻に先立たれ元気をなくす男性と、夫に先立たれなぜか元気になる女性がいることは事実です。

 

「夫より先に死ねない」という人の中には、「一週間でいいから未亡人をしたい」とこっそり話してくれる人もいました。ご飯の支度は考えず、好きなことが存分にできる自分の時間がほしいというのです。

 

いまの若い人はだいぶ男女平等意識は備わっているかと思いますが、現在の65歳以上は性別役割にどっぷり浸かっていた方々と言っていいでしょう。いまから、意識を変えるのは難しいかもしれません。でも、妻から精神的に自立し、ひとりになってものんびりと楽しく生きるスキルは身につけておきましょうと、男性には言いたいです。

 

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    ルネクリニック東京院 院長

    1960年生まれ。
    東京大学医学部卒業。
    東京大学医学部附属病院精神神経科助手、アメリカカール・メニンガー精神医学学校国際フェロー、高齢者専門の総合病院である浴風会病院の精神科を経て、現在、ルネクリニック東京院院長。
    30年以上にわたって高齢者専門の精神科医として高齢者医療の現場に携わる。
    『自分が高齢になるということ』(新講社)、『年代別医学に正しい生き方 人生の未来予想図』(講談社)、『六十代と七十代 心と体の整え方』(バジリコ)、『「人生100年」老年格差』(詩想社)『70歳が老化の分かれ道』(詩想社)、『80歳の壁』(幻冬舎)など著書多数。

    著者紹介

    連載人生100年時代を豊かな心で健康に生き抜くための処方箋

    本連載は和田秀樹氏の著書『80歳の超え方 老いは怖くないが、面倒くさい』(廣済堂出版)より一部を抜粋し、再編集したものです。

    80歳の超え方 老いは怖くないが、面倒くさい

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    和田 秀樹

    廣済堂出版

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