(※写真はイメージです/PIXTA)

ある男性の母親は認知症となり介護施設へ。意識もなくなり、家族みんなで心配していたところ、病気の気配のなかった父が急逝。息子たちは想定外の展開に大混乱しますが、手続きは遅々として進まず、相続税の申告期限が迫り…。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに、生前対策について解説します。

3人の息子を不自由なく育て上げた、資産家の両親

今回の相談者は、50代会社員の松田さんです。父親が亡くなり、相続手続きがうまく運ばず途方に暮れているということで、筆者の事務所に駆け込んできました。

 

松田さんは3人兄弟の長男で、大学卒業後は大手企業に勤務し、いまは妻と子どもたちと暮らしています。2人の弟も松田さんと同様家庭を築き、いずれも安定した生活ぶりです。

 

「父の実家はもともと農家で、市内に複数の土地を所有しています。両親は土地を活用して、駐車場や貸家を運営し、父親の定年退職後も、年金と賃貸収入で悠々自適の生活でした」

 

松田さんと2人の弟は、経済力のある父親のおかげで不自由なく育ち、独立して家を離れたあとも、資産家の両親の生活を心配したことはなかったそうです。

息子たちが気にかけていたのは、認知症の母だったが…

ところが、松田さんの母親は、60代からアルツハイマー型認知症を発症。症状は次第に重くなり、いまは寝たきり状態となって、実家近くの老人ホームに入所しています。意識もなく、食事はチューブで摂取しています。

 

「私も弟たちも、母親が亡くなることばかり気にかけていたんです。最近はもうコミュニケーションが取れない状態ですし、体もやせてしまって…。正直、ずっと病気知らずの父のことには、気が回っていませんでした」

 

それなのに、元気だと思って安心していた父親のほうが、母親より早く亡くなってしまったのです。

 

「父は自分が亡くなる数時間前まで、母のことを心配していたんですよ。それなのに、突然倒れて…。こんなことはだれも想像していなかったので、本当に慌てました」

 

松田さんは、疲れた表情で言葉を続けました。

 

「相続の相談は、父が普段から確定申告を依頼していた税理士事務所に持ち込んだのです。ですが、いったんは了承したものの、さんざん待たされてしまいまして。しびれを切らして詰め寄ったところ〈やっぱり時間がない〉と断られてしまいました…」

 

父親の急死という想定外の事態による動揺、税理士事務所の回答待ちの時間、そして新たな相談先探しなどを行ううちに時間は容赦なく過ぎ、申告期限までわずか1ヵ月となってしまいました。

相続人のなかに「後見人」と「被後見人」がいる場合

そこで筆者と提携先の税理士は、申告期限まで期日が迫っていたことから、松田さんに、まずは未分割(法定割合)による相続税の申告、同時に延納手続きを提案しました。松田さんもそれに納得し、了承しました。

 

延納とは、一度に相続税が支払えない場合において、分割で支払う制度です。この方法は、いくつかの条件を満たす必要があり、延納利子税もかかります。しかし、今回のケースでは、いったん相続税申告をすませてから遺産分割協議をおこない、改めて更正の申告をする段取りの方がよいと判断しました。

 

また、認知症により施設に入所している母親ですが、判断能力がないため、遺産分割協議をするには家庭裁判所に成年後見制度の申立をし、後見人を選任するなど時間的余裕を作る必要がありました。

 

これは、本人の判断能力がほとんどない場合などに、本人に代わって判断する人を決めてもらう制度です。財産に関することなど重要な判断をする必要があるので、松田さん本人が後見人として申立しました。

 

ただし、相続人のなかに後見人と被後見人がいる場合、遺産分割協議が利益相反為となってしまうため、後見人は被後見人のために特別代理人の選任を家庭裁判所に請求しなければなりません。特別代理人は、被後見人に代わって相続人の分割協議に参加し分割協議書に署名、捺印することになります。

モタモタしていると、あっという間に時間切れに

「私も弟たちも、父親が先立つとは想像もしていませんでした。相続の手続きをするにも、あっという間に時間が過ぎてしまって…。でも、延納手続を取っていただいて助かりました。これから弟たちとしっかり話し合い、遺産分割協議を進めていきたいと思います。今回は本当に慌てましたが、一番慌てたのは、亡くなった父本人かもしれませんね…」

 

一段落した状況に、松田さんは安堵の表情を見せてくれました。

 

相続税の申告期限は、相続発生から10ヵ月です。十分な時間がありそうですが、実際はやることが多く、のんびりしている時間などありません。そのため、申請や手続きは、できるだけ速やかに進めることが重要です。

 

税理士等の専門家に手続きを依頼する場合も注意が必要です。相続関連の税務は特殊なので、企業の財務や不動産運営などを専門に扱っている税理士では、引き受けてもらえなかったり、引き受けてもらえても、節税などにおいて満足な結果が得られない可能性もあります。相続の知識を持つ税理士等を探して頼むようにしましょう。

 

 

※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

 

曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士

 

◆相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

 

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

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    本記事は、株式会社夢相続のサイト掲載された事例を転載・再編集したものです。

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