資産家の父が突然死、長兄は敷地内別居だが…
今回の相談者は、50代会社員の石井さんです。父親が突然亡くなったことで相続が発生したのですが、その後、きょうだい間でもめごとが起きているということで、筆者の元へ相談に訪れました。
石井さんの家族構成ですが、二男である石井さんのほか、母親・長男・長女・二女の5人です。父親は地主の家系の出身で、自宅不動産のほか、駅周辺に土地を保有し、地元企業に貸しており、畑、駐車場等も保有しています。
「自宅敷地は広く、長男の兄が敷地の一部に家を建てて生活していましたが、父親と諍いがあり、言葉も交わさない関係になっていました。詳しい事情はわかりません。私と2人の妹は、大学卒業後にみんな家を出て、結婚後はそれぞれ自宅を購入しています」
「長男の自分が相続する」…勝手な兄の言い分に反発
石井さんの父親は持病などなかったのですが、ある朝、母親に気分が悪いと訴えるとそのまま意識を失い、救急搬送先の病院で帰らぬ人となってしまいました。
「母親から最初に連絡を受けたのは私です。妹たちも駆けつけ、葬儀の手配をするなどてんやわんやでした。ようやくお通夜の準備が整いグッタリしているところへ、これまで姿を見せなかった兄がヌッと現れて〈みんな、よく聞くように。親父の相続について、俺から指示を出す〉と…」
石井さんも母親もあきれ果てましたが、疲労のあまり反論する気力もなかったといいます。
「兄からは、〈二次相続を考え、大部分の財産は長男である自分が相続する。二男には駅前の駐車場、結婚して家を出た長女と二女には現金で300万円ずつ、母親の相続分はなし〉という内容でした。しかし、そもそも父親の資産がどのくらいあるのか、こっちは正確に把握していなかったのです」
資産の全容が明らかになり、妹たちは激怒…着地は?
「父の資産の大半は相続財産なので、母も全体を把握していません。以前、父が兄を頼りにしていたときに、情報共有していたようですが、われわれはその内容を知りません…」
石井さんの説明を聞き、筆者と提携先の税理士は、まずは正確な評価をするために不動産の現地調査が必要だと考えました。早速調べた結果、財産全体で1億8,000万円ということが判明しました。
「資産の全容が見えたことで、2人の妹からも不満が噴出しました。〈300万円って、いったいどういうつもりなの!?〉と…。私だって納得できませんよ。兄が両親の面倒を見ていたならともかく、ここ数年は言葉も交わさず、葬儀の手配もこっちに丸投げで…。どうして兄がすべてを相続する必要があるのでしょうか」
そのことから、長男以外のきょうだいは、法定割合相当を現金で相続することを主張しました。しかし、それに足りる現金はありません。そこで筆者と税理士は、不動産を相続する母と長男が、代償金を払うことを提案しました。
「兄は最初、全部の資産をひとりでもらう腹積もりだったのでしょうね。でも、私や妹たちばかりか、母親からも大反対されて孤立し、折れたのです」
話し合いを重ねた結果、母親が財産の約80%を相続する形で分割がまとまりました。配偶者の特例を活用したことで相続税の節税にもつながり、無事申告期限までに申告を終えることができたのです。
「怒涛のような毎日でしたが、解決できて本当によかったです。満足な結果になりました」
石井さんはそのようにいうと、笑顔を見せてくれました。
遺産分割を考える以前に、財産の全体像の把握は必須です。そこから、評価額と相続税を確認することがスタート地点だといえます。また、これまでも繰り返し述べていますが、いくら相続分を公平にしても、不動産の共有は避けましょう。のちのトラブルに直結することになるからです。
※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。
曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。