(※写真はイメージです/PIXTA)

リーダーシップを発揮する際に、周りを巻き込む「語り」が重要になってきます。経営者の「語り」が果たす役割とは何でしょうか。経営コンサルタントの井口嘉則氏が著書『リーダーのための人を動かす語り方』(日本能率協会マネジメントセンター)で解説します。

ストーリーリテイリングは人を行動させる

■ストーリーテリングの効果

 

こうして私たちの身近にあるストーリーテリングですが、それには、以下のような効果があります。

 

▶(1)聞き手にリアルなイメージを与える(聞き手が間接的な追体験をする)

ストーリーは、語り方によって聞き手に、リアルなイメージを与えます。例えば、私が小学校から中学校にかけて『巨人の星』というTVアニメがありました。星飛雄馬という主人公が、子供の頃から父親の星一徹に厳しく鍛えられ、なんとか憧れの巨人軍に入る話ですが、そこで当時まだ現役で活躍していた長嶋茂雄や王貞治と対戦する場面がありました。そして、王との最初の対戦では、見事三振に切って取ったのです。

 

さて、そうした場面をTVで観ていた私は、中学校三年生の修学旅行で東京に行った際、後楽園球場を観に行ったのですが、まるでそこに星飛雄馬がいるのではないかと錯覚する位の感覚を味わったことがあります。非常にリアルな感じで、伝わってきました。それは、TVアニメの世界に没入していたからこそ起こった錯覚でした。

 

▶(2)聞き手が主人公に感情移入する

ストーリーがリアルであればあるほど、聞き手ないし観る方は、主人公に感情移入していきます。ですから、星飛雄馬が、大リーグボール3号の投げ過ぎで、利き腕の左手を壊してしまった場面では、「ああ、もうこれでお終いだ!」と大いに落胆したものです。利き手が壊れてしまったわけですから、そこで野球人生は終わってしまうわけです。

 

人間は子供から大人になるにつれて、だんだん世の中というものが分かってきますから、物語で表現された世界がリアルなものであるかどうかの判別基準が厳しくなっていきます。そうすると、子供の頃は没入できたストーリーも、大人になってみてみると、冷めてしまって、「なんだこんな話だったっけ?」と子供だましの話にがっかりすることがあります。

ですので、リアリティの出し方というのは、相手によって工夫が必要になってきます。幼児期は、絵本の世界でもリアルに感じられますが、大人になると、VFXを駆使した映画くらいにならないとリアル感を感じられなくなります。例えば、アニメ映画でも、『君の名は。』のように、映像表現にリアリティがあると没入感が得やすくなります。

 

私も、その映画の中に出てきた東京の四谷や千駄ヶ谷あたりの場面は、鑑賞後「聖地巡礼」で見に行って、「あぁ、ここか!」と写真を撮って歩いたことがありました。

 

▶(3)出来事や状況に意味を与える

ストーリーは、その時、そこで起こっていることに意味を与えます。

 

例えば、スターウォーズの場合は、ルークが留守中に、自宅が放火され、育ての両親が殺害されてしまうのですが、それはオビワンによれば、帝国軍がルークの存在に気付いて、ルークがいる惑星に襲撃を掛けたのだったということに気付かせてくれるわけです。つまり自分の命が狙われているということが分かったわけです。

 

また話変わって、例えば、1853年にペリーが4隻の黒船で浦賀に現れ、江戸中が大騒ぎになりました。物珍しさに見物に行った人もいるわけですが、それは単にアメリカの捕鯨船が、補給物資の港が欲しくて現れたのではなく、長らく鎖国を続けてきた日本を開国させ、スペインやイギリスがやってきたように、アフリカやアジアや南米の国々のように、日本を植民地化しようという帝国主義の野望の始まりであったわけです。

 

同じ出来事でも、ただ大きな黒船(蒸気船)が現れたと捉えるだけではなく、アヘン戦争に負けて香港などを租借させられた中国をはじめ近隣諸国の状況を見ていると、その状況が全く違って見えてくるわけです。

 

歴史が英語でhistoryとなっているのは、歴史というのは単に史実が連鎖して起きているのではなく、その時代のそこで暮らす人たちが、何らかの意図をもって何かの行動を起こしてきた結果なので、hi-storyということで、storyが組み込まれているわけです。

 

▶(4)場合によっては、聞き手に行動を起こさせる

東日本大震災では、被災地の惨状をTVなどで目にした人たちから、多くの義援金が寄せられました。お金持ちの方の中には大金を寄付した方もいました。これは、TVを通して、観ていた人たちが共感・共鳴して寄付を行うという行為に走った例です。

 

年末などに児童施設に「伊達直人」の名前でモノやお金を寄付する人が時々いますが、彼らは、子供の頃アニメの『タイガーマスク』を観ていて、その主人公の伊達直人が孤児院等に寄付を行ったという行為に共感して寄付行為を行っているわけです。

 

機動戦士ガンダムの実物大の動く模型を造るというのもアニメを観る人・聞く人に行動を起こさせる例ですね。

 

アメリカの西海岸では、ディズニーランドの中にスターウォーズエリアが作られ、ハンソロの乗っていたミレニアム・ファルコン号の模型に搭乗することができるようになりました。

 

ドイツの観光名所の一つであるノイシュバンシュタイン城は、城主であったバイエルン国王ルートヴィッヒ2世(在位1845~1886年)が、ワーグナーの歌劇「ローエングリン」に登場する中世の騎士の世界を再現しようとして建てられたものだといわれています。これも物語=歌劇に刺激を受けて、行動を起こした例の一つですね。

 

このようにストーリーテリングは、その話を見たり聞いたりした個人だけでなく、大きな組織をも動かす力にもなりますので、適切な語り方を学べば強い武器になりえます。

 

次ページ必ずしも私たちが上手に語れない理由とは

※本連載は井口嘉則氏の著書『リーダーのための人を動かす語り方』(日本能率協会マネジメントセンター)より一部を抜粋し、再構成したものです。

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