(※写真はイメージです/PIXTA)

中国人民元がドルの基軸通貨の地位を脅かす可能性は低いといえます。中国はドルの流入が断たれると財政・金融ばかりでなく、モノの生産、流通、消費、投資のすべてが麻痺してしまいます。ジャーナリストの田村秀男氏が著書『日本経済は再生できるか 「豊かな暮らし」を取り戻す最後の処方箋』(ワニブックスPLUS新書)で解説します。

人民元発行増減率は外貨資産と連動

これらは筆者が人民元制度の分析から見出した見解です。あるエコノミストは「田村理論」だと冷やかしますが、何よりもその正しさはデータが証明しています。中国人民銀行が保有する外貨資産(外貨準備にほぼ相当)と人民銀行による人民元資金発行高は互いに連動します。

 

毎月の相互の前年同月比増減率について、2000年1月から2022年3月の期間を対象に、統計学上の相関係数(ふたつの異なるデータ同士の相性の良さを表し、最高値は1)を算出してみると、0.92と極めて高い。外貨資産は2015年から大きく落ち込みはじめ、2019年からはほぼ横ばいです。

 

グラフ2―④は、中央銀行である中国人民銀行の外貨資産および人民元資金発行高と、実質GDPの各前年同期比増減率です。繰り返しになりますが、中央銀行による資金発行は人体で言えば輸血のようなもので、経済という身体の成長に必要な血液=カネを供給します。

 

2008年9月のリーマン・ショックを受けて、人民銀行は数年間、猛烈な勢いで資金発行量を増やし、ふた桁台の実質経済成長を実現しました。

 

ところが、2016年以降は資金発行の伸びが止まりました。2019年は2016年に続いて資金発行はマイナスで、武漢発の新型コロナ・パンデミックが起きた2020年も前年を下回りました。2021年2022年前半も伸び率は極めて低い。

 

この実績を前提にグラフ2―④をさらに見ると、人民元発行増減率は多くの年で外貨資産とほぼ連動していることがわかります。中国の資金発行は人民銀行の外貨買い上げと一体化しているのです。つまり、外貨がネットで流入しないことには、人民元を増発できないということです。

 

出典)田村秀男著『日本経済は再生できるか 「豊かな暮らし」を取り戻す最後の処方箋』(ワニブックス【PLUS】新書)より。
出典)田村秀男著『日本経済は再生できるか 「豊かな暮らし」を取り戻す最後の処方箋』(ワニブックス【PLUS】新書)より。

 

歴史的には、中国共産党は通貨を乱発した国民党が国民大衆から見放された結果、内戦に勝利しました。しかしながら、本来は紙切れにすぎない人民元というカネは、中国人一般の信用を得られていません。外貨即ちドルの裏付けを共産党政権は必要としているのです。

 

新型コロナ感染という非常時にも先進国のような通貨増発ができません。ということは、不況対策としての財政出動も大きな制約を受けます。

 

中央銀行による通貨発行は経済の成長原資となります。それが増えないことは経済の低迷を意味し、実際に成長率は下がる一方なのです。

 

経済に支えられる軍拡も対外膨張戦略もドルの流入なしには成り立ちません。ロシア並みの金融制裁を受けると、米欧日の投資ファンドや銀行からの投融資は当然のように潮が引くように消えてしまうでしょう。

 

外貨資産の裏付けのない人民元は国内でも信用がなくなり、売りが殺到します。仮に国内経済維持のためとはいえ、外貨の裏付けのないまま人民銀行が人民元を発行すれば、悪性インフレを招きます。

 

田村 秀男
産経新聞特別記者、編集委員兼論説委員

 

 

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本連載は田村秀男氏の著書『日本経済は再生できるか 「豊かな暮らし」を取り戻す最後の処方箋』(ワニブックスPLUS新書)より一部を抜粋し、再編集したものです。

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