人民元の影響力増大?プーチンの後押しで進む基軸通貨化の野望 (※写真はイメージです/PIXTA)

習近平の「人民元決済拡大」の野望は、「脱ドル」に執念を燃やすロシアのプーチン大統領との連携を必然的に生み出しました。中露協力協定は中露通貨同盟に他なりません。ジャーナリストの田村秀男氏が著書『日本経済は再生できるか 「豊かな暮らし」を取り戻す最後の処方箋』(ワニブックスPLUS新書)で解説します。

北京冬季五輪開幕式の中露共同声明

■習近平とプーチンの盟約

 

中露通貨同盟の端緒は2022年2月4日の北京冬季五輪開幕式に出席したプーチン大統領と習近平党総書記・国家主席の共同声明です。声明では「両国の友情に限界はなく、協力するうえで禁じられた分野はない」と書かれています。

 

ロシアがウクライナに侵攻したら、それに中国は協力して支援する、と読めます。謂わば習近平とプーチンが交わした「盟約」ですが、共同声明に基づき、3月12日までに締結された4分野での中露協力協定が中露通貨同盟の始まりを告げています。

 

協定は、西側の対露経済制裁を踏まえて中露のウイン・ウイン(共益)と脱ドル依存を図る内容です。ロシア産小麦輸入手続きの簡素化、ロシア産天然ガスと石油の輸入拡大、両国間のコンテナ海上輸送の促進に向け青島に共同輸送センターの設置、などを表明しています。

 

さらに4番目に、合意の核心である両国間貿易の人民元およびルーブルによる決済の採用とドル決済の排除を謳っています。

 

天然ガスは2500億立方メートル分の輸入で、10年間とすれば年平均250億立方メートルで、2020年当時の35億立方メートルから大きく拡大し、ドイツ向け輸出の約5割に相当します。ドイツ向けを5割削減できるというわけです。

 

原油は10年間で10億トン、年平均1億トン(日量約200万バレル)を輸入します。中国のロシア原油輸入は2014年の3000万トン(同60万バレル)から増加しつづけ、2021年は7000万トン(同140万バレル)の水準にあります。要は、米欧からの石油や天然ガスの輸入禁止や中止に合わせ、中国が余剰分を買い上げ、使う通貨は人民元もしくはルーブルとするという趣旨です。

 

ロシアの対外準備資産はどうなっているのか。ロシア中央銀行統計によると2022年4月15日現在の対外準備資産(金をふくむ)は6111億ドル、ウクライナ侵攻直前の2月18日の6432億ドルから321億ドル減です。

 

ロシアは金融制裁を受け、日米欧の中央銀行に預けている金融資産、準備資産のうち約5割、約3200億ドル以上が凍結されましたが、とりあえず手元に確保している外準をとり崩して期限到来の外貨建て国債の償還に回し、国債のデフォルトを回避したことがうかがわれます。

 

ロシア外準に占めるドルと人民元の準備比率はどうでしょうか。グラフ2―①、2―②を見てみましょう。2022年1月が最新データで、対外準備資産総額6302億ドルのうち、ドルは10.9パーセント、687億ドル、人民元は17.1パーセント、1078億ドルに上ります。2021年3月時点ではドル21パーセント、1198億ドル、人民元13.2パーセント、75億ドルでしたが、人民元の比重が上昇し、ドルを逆転したわけです。

 

出典)田村秀男著『日本経済は再生できるか 「豊かな暮らし」を取り戻す最後の処方箋』(ワニブックス【PLUS】新書)より。
出典)田村秀男著『日本経済は再生できるか 「豊かな暮らし」を取り戻す最後の処方箋』(ワニブックス【PLUS】新書)より。

 

もっと目立つのはユーロ建て資産で、2021年3月の29パーセント、1651億ドルが2022年1月には34パーセント、2136億ドルへと増やしています。この間の増減額は、ドルが511億ドル減で、ユーロ485億ドル増、人民元321億ドル増です。ドルを人民元に置き換えているわけですが、国際決済での人民元の使途は対中貿易などに限られるものの、人民元を経由してドル、ユーロ、円などにアクセスできれば人民元の有用性は高まります。

 

したがって中国の銀行間決済システムCIPSがロシアにとって重要になってきます。

 

ウクライナ侵攻前の2月18日時点でのロシアの外貨準備(金準備をふくむ)は6432億ドルのうち13.8パーセントが中国人民銀行に保管されています。

 

日米欧などによって凍結された対外資産の内訳は、米国保管分(ドル資産)は6.6パーセント、フランス(ユーロ資産)と日本(円資産)がそれぞれ10パーセント、ドイツが9.5パーセント(ユーロ資産)、英国(ポンド資産)4.55パーセント、オーストリア(ユーロ資産)3パーセント、カナダ(カナダドル資産)2.8パーセント、その他10.7パーセントとなっています。金準備は21.7ーセントで、ロシアがウクライナ侵攻前に自由にできる対外資産は人民元建てをふくめ35.5パーセント、2282億ドルということになります。

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    産経新聞特別記者、編集委員兼論説委員

    1946年高知県生まれ。70年早稲田大学政治経済学部経済学科卒後、日本経済新聞入社。ワシントン特派員、経済部次長・編集委員、米アジア財団(サンフランシスコ)上級フェロー、香港支局長、東京本社編集委員、日本経済研究センター欧米研究会座長(兼任)を経て、2006年に産経新聞社に移籍、現在に至る。主な著書に『日経新聞の真実』(光文社新書)、『人民元・ドル・円』(岩波新書)、『経済で読む「日・米・中」関係』(扶桑社新書)、『検証 米中貿易戦争』(マガジンランド)、『日本再興』(ワニブックス)がある。近著に『「経済成長」とは何か?日本人の給料が25年上がらない理由』(ワニブックスPLUS新書)がある。

    著者紹介

    連載「物価だけが上がり給料は上がらない」最悪の未来は続くか

    本連載は田村秀男氏の著書『日本経済は再生できるか 「豊かな暮らし」を取り戻す最後の処方箋』(ワニブックスPLUS新書)より一部を抜粋し、再編集したものです。

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    田村 秀男

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