(※写真はイメージです/PIXTA)

習近平の「人民元決済拡大」の野望は、「脱ドル」に執念を燃やすロシアのプーチン大統領との連携を必然的に生み出しました。中露協力協定は中露通貨同盟に他なりません。ジャーナリストの田村秀男氏が著書『日本経済は再生できるか 「豊かな暮らし」を取り戻す最後の処方箋』(ワニブックスPLUS新書)で解説します。

欧州削減分の天然ガスは中国へ輸出

■ロシアへの経済制裁は効いているのか

 

日米欧の金融制裁によって、ロシアの主要銀行はドル取引が禁じられたうえに、SWIFTから排除されました。ロシア中央銀行が日米欧でもつ外貨資産は凍結されて使えず、一時ロシアの通貨ルーブルは暴落し、ロシアのドル建て国債はデフォルト(債務返済不履行)危機に陥りました。それでも、4月以降、ロシアは欧州向けなどのエネルギー輸出による外貨収入や中国人民銀行の水面下での協力で通貨ルーブルの相場安定に成功しました。

 

ロシアからは大手金融資本のJPモルガン、ゴールドマン・サックス、クレジット大手のビザ、マスターカード、国際石油資本のエクソン・モービル、シェル、BP、ほかにアップル、フォード、マクドナルド、コカ・コーラなど旧ソ連崩壊後のロシアに深く関わってきた米欧資本の代表格が軒並み撤退、または事業停止に踏み切り、ロシアの経済社会が一挙に西側世界から断絶されそうな情勢です。

 

代わりに存在感を高めているのが中国資本です。ウクライナ侵攻後、ロシア企業からは中国の大手国有商業銀行のモスクワ支店に口座開設申し込みが殺到しました。

 

クレジット市場では国有大手の銀聯カードが参入に向けてロシアの銀行と提携交渉していますし、スマホではアップルが抜けた大きな穴を華為技術や小米が埋めようとモスクワで欣喜雀躍しているようです。

 

中国本土の銀聯にも米日欧の企業がロシアとの送金ルートに利用しようとして、やはり口座開設の申し込みが急増しています。しかし、前にも述べたとおり、習政権は米国からの二次制裁を恐れ、これらの金融機関や企業の対露ビジネスの拡張は慎重にせよと指令しています。要は、西側に目立つような動きをするな、ということで、水面下でのビジネス拡大は大いにあり得ることです。

 

実際にロシア中央銀行と中国人民銀行の協力関係は日を追うごとに、CIPSを通じて緊密度を増しています。

 

『日本経済新聞』2022年7月22日付朝刊は以下のように報じています。

 

〈有力紙ベドモスチによると、7月中旬の時点で、CIPSにはロシアの23行が接続している。直近では6月に大手アブソリュートバンクがCIPSに接続した。大手ロスバンクや国営ガスプロム傘下のガスプロムバンクも接続準備を進めている。(中略)

 

CIPSへの接続について、アブソリュートバンクは「人民元は支払い手段としては通貨別で世界の5%以上を占める」と指摘。「人民元での送金手続きを迅速化し、送金コストも減らせる」と利点を説明した。2月に接続したサンクトペテルブルク銀行は「中国の銀行と直接の送金取引関係がつくれる」と述べた。ロシアの大手行がCIPSへの接続を急ぐ背景には中露貿易の急増がある。16年に約660億ドル(約9兆円)だった貿易額は5年後の21年に1400億ドルを超えた。24年に2000億ドルに増やす目標も掲げられている。(後略)

 

対ロシア制裁の強化に伴いSWIFTから排除されるロシアの銀行が増えておりCIPSへの接続を決める銀行が一段と増える可能性がある。〉

 

引用文中にあるガスプロムバンクは欧州向けなどロシア産天然ガス輸出の決済銀行で、2月末実施のSWIFT制裁対象リストから除外されていますが、CIPSの利用にも踏み込みました。

 

これが意味するのは、ロシア産天然ガス供給増に伴う人民元決済への備えです。プーチンは欧州に圧力を加えるために欧州向け天然ガス供給の削減を辞さない構えですが、その削減分は中国に回すのです。まさに、習・プーチンの友情にかぎりはないわけです。

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    本連載は田村秀男氏の著書『日本経済は再生できるか 「豊かな暮らし」を取り戻す最後の処方箋』(ワニブックスPLUS新書)より一部を抜粋し、再編集したものです。

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