(※写真はイメージです/PIXTA)

ウクライナ侵攻を続けるロシアへの経済制裁として、SWIFT制裁を決めました。ロシア中央銀行が日米欧でもつ外貨資産は凍結されて使えないうえに、ロシアの銀行の大半がドルなど外貨の決済や調達ができなくなるのです。ジャーナリストの田村秀男氏が著書『日本経済は再生できるか 「豊かな暮らし」を取り戻す最後の処方箋』(ワニブックスPLUS新書)で解説します。

ブロック経済圏は戦争を誘発する

■SWIFT排除の対抗策

 

ドルの国際取引禁止の極め付けの案が、銀行間の国際決済ネットワークである国際銀行間通信協会(SWIFT)からのロシア排除です。SWIFT決済の中心になる通貨はもちろんドルです。バイデン政権はウクライナ情勢緊迫化の当初からロシア外しについて検討をすすめていました。2月24日のウクライナ侵攻を見て、ただちに米国はロシアの主要銀行へのドル取引禁止処分に加え、SWIFT制裁を決めました。

 

そうなるとロシアはドルを中心とする国際金融市場から事実上、全面的に締め出されることになりかねません。ロシアは自国通貨のルーブル、ユーロ、円、それに人民元などそのほかの通貨での資金取引に頼るしかありませんが、バイデン政権は米銀に対し、SWIFTを迂回してロシアに協力する銀行とのドル取引制限を命じる可能性が高いからです。銀行の国籍を問わず、ドルを不自由なく出し入れする米銀が介在しないことには、国際金融業務が不可能になります。

 

ロシア中央銀行が日米欧でもつ外貨資産は凍結されて使えないうえに、ロシアの銀行の大半がドルなど外貨の決済や調達ができなくなるのです。

 

ロシアにとってSWIFTの代わりになり得るのが「CIPS」です。これは中国人民銀行主導で2015年に稼動した人民元決済ネットで、ドルを経由しなくても、人民元を介して各国間の資金を決済できるわけです。前年のクリミア併合で米国などから制裁を受けたプーチン大統領の脱ドル政策に寄り添っています。中露両国間貿易の決済通貨はドル中心だったのですが、段階的に主にユーロ決済に切り替えてきました。ロシアは外貨準備でもドルを大幅に減らし、人民元のシェアを増やしてきました。

 

CIPSは中露脱ドル同盟のシンボルですが、グローバル決済ネットとしては規模が小さく、SWIFTを脅かすとはとても言えません。CIPSの年間取引額はSWIFTの1日分にも及びませんし、1日当たり取引件数にいたっては4000分の1以下です。

 

CIPSには邦銀もみずほ、三菱UFJ、三井住友のメガバンク三行が加盟、それぞれの中国法人が中国の国有商業銀行と同様、CIPSに口座をもつ直接参加行となっています。

 

CIPSを使えばロシアの銀行や企業が邦銀現地法人をふくめ、CIPS口座を持つ銀行経由で貿易代金など金融取引を人民元で決済できます。ロシア企業の中国の銀行での人民元口座開設はCIPSの利用を促進することになるわけです。つまり、二国間での人民元決済に使われるローカルネットであるわけですが、それでも邦銀などがそれを使ってロシアとの金融取引を盛んにすれば、米国から二次制裁を食らいかねません。

 

CIPSは中露二国間ネットとしては、ドル覇権の回避ルートとして使えます。CIPSにはロシアからすでに20数行が加わっています。そのことからも、中露はCIPSを通じた通貨決済同盟に突き進んでいると見て、差し支えないでしょう。

 

二国間、あるいは地域間の通貨決済同盟は1930年代、英国を中心とする金本位制が崩壊し、1930年のスムート・ホーレイ法によって高関税障壁を築いた米国を筆頭に、世界全体が保護貿易主義に走ったときの産物でした。

 

通貨同盟は英国連邦であるコモンウエルス(英本国を中心とする自治領・独立国の連合体)経済圏をつくった英ポンド決済によるブロック経済圏が代表例です。日本が円決済ブロック圏、ナチス・ドイツがマルク決済ブロック圏で対抗した結果が第二次世界大戦とも言えましょう。

 

田村 秀男
産経新聞特別記者、編集委員兼論説委員

 

 

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本連載は田村秀男氏の著書『日本経済は再生できるか 「豊かな暮らし」を取り戻す最後の処方箋』(ワニブックスPLUS新書)より一部を抜粋し、再編集したものです。

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