現地の会社の社長になったのに、現地の人たちに、その会社を将来どうしたいのか、その会社のビジョンを示せなかったがために、優秀な幹部が辞めていった事例もあります。経営コンサルタントの井口嘉則氏が著書『リーダーのための人を動かす語り方』(日本能率協会マネジメントセンター)で解説します。

 

海外では自分の意見をはっきり述べる必要が

■海外では話下手では通用しない

 

私の米国での体験を少しお話しましたが、自分の意見や考えをはっきり述べる必要があるのは、欧米にとどまりません。中国・韓国等の東アジアの国々やタイ・フィリピン・ベトナム等の東南アジアの国々においても自分の考えや、意見をはっきり言うことが求められます。

 

つまり、日本以外の国々はローコンテクスト社会、文脈共有度が低い社会なのです。むしろ日本の方が世界の中では例外的と言っていいでしょう。世界的に見てまれに見るハイコンテクスト社会に慣れてしまっていると、海外のローコンテクスト社会に行って、コミュニケーションで苦労することになります。

 

よく日本人は、海外に行って何か聞かれても、黙ってニコニコしているだけなので、「アーカイックスマイル」と言って、不思議がられたり、気味悪がられたりします。英会話が苦手なので、なるべくしゃべらないようにしているわけです。また、文法上の正確さを気にしすぎるので、文法的に正確な文章を言おうとして、単語や文章を頭の中で推敲しているうちに、話題が変わってしまって、発言するチャンスを逃したりします。

 

若い頃、米国のビジネススクールの授業で、クラスディスカッションのセッションがあり、私を含め、数名の日本人が受講していました。ネイティブの人たちが専門用語を使ったテンポの速いディスカッションを行うので、なかなか入り込めませんでした。それで、自分から先生に発言機会を求めたことがありました。

 

そしたら、自席で発言ではなく、大きな教室の先生が立っている壇上に上がらされ、そこで発言しろと言われました。私は、どぎまぎしながら、その場では、何とか自分なりに言いたいことは英語で発言してみたのですが、その後、会場から質疑応答の応酬となって、訳が分からなくなり、先生が止めに入ってくれたことがありました。

 

そんなことをしたのは日本人では私だけで、一緒に受講していた他の日本人留学生の人たちは、その科目のクラスの中で一度も発言することがなく、自席で静かにしていました。当時は、海外留学する企業派遣の日本人の人たちですら、なかなかそういうことしようとしませんでした。

 

でも筆記テストではそこそこの合格点を取っていたので、卒業はできていました。

 

これは学校の話なので、それでも済んだのですが、社会に出るとしゃべらないでは済まされません。たとえ日本では優秀な人でも、自社の東南アジアなどの海外拠点に出向して、現地でトラブルがあった際に、きちんと現地の人たちに原因や対策などを説明できなかったために、ストライキなどの大事になった事例も聞きます。

 

また、現地の会社の社長になったのに、日本の本社にお伺いばかり立てていて、現地の人たちに、その会社を将来どうしたいのか、その会社のビジョンを示せなかったがために、優秀な幹部が辞めていった事例なども聞きます。

 

海外で生活していると、最初は日本と違うところばかり目につきますが、しばらく現地の人と接していると、「外見は大きく違うけれども、人間中身はそう違わないものだ」ということに気付きます。「魚心あれば水心」ということで、冗談を言って通じるようになれば、合格でしょう。

 

私なんかは、米国子会社の秘書の人たちに自分の名前を覚えてもらおうと、たまたま自分がしていたスラックスのベルトにグッチのバックルがついていたので、それを指さして、「イグッチと呼んでください」と言って、爆笑を誘い、その後親しく接してもらったことがありました。

 

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※本連載は井口嘉則氏の著書『リーダーのための人を動かす語り方』(日本能率協会マネジメントセンター)より一部を抜粋し、再構成したものです。

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