私たちは日常生活で人とよく話をしています。それで意思疎通もできていて、多くの人が不自由していないわけですが、それでもなぜ私たちは話すことが苦手なのでしょうか。経営コンサルタントの井口嘉則氏が著書『リーダーのための人を動かす語り方』(日本能率協会マネジメントセンター)で解説します。

 

話し方も重要、話す中身はもっと重要

■学校で教わらなかった「話し方」

 

実社会では重要なのに学校教育で公式に学ばないものに、語り方とリーダーシップの発揮の仕方があります。知識偏重教育のため、たくさん覚えている人が偉い、よく知っている人が頭がいい人となっています。TVでもクイズ番組が多いですね。そしてクイズ王がもてはやされています。

 

しかし、仕事というのは、何かをすることなので、単に知識として知っているだけでは役に立ちません。知っていることを活用して何かをしなければならないのです。また仮に、知っていなくても、誰かに尋ねて教えてもらって仕事ができればいいので、物事をどれだけ知っているかというのは、さほど重要ではありません。

 

それよりも、自分のことをよく理解してもらって相手に自分のことを信用・信頼してもらったり、自分の考えを分かりやすく伝えて理解してもらったり、相手の話を聞いて理解してあげたり、説得して相手の考えを変えてもらったり、人を動かしたりすることの方が重要なのです。

 

このように実社会では重要な「話し方」というのを、学校教育ではほとんど教えません。私の体験では、小学校5年生の時でしたか、クラスのみんなから推薦されて、生徒会の役員に立候補したことがありましたが、立候補演説で何をしゃべったらいいのか分からなかったので、父親に原稿を書いてもらって話したことがありました。この時に初めて、人前ではこういうことをしゃべらなければいけないのかと感じました。

 

欧米では、古代ギリシャの時代から、人前で話をする、自分の考えを述べるということが重視されてきたので、小学校からでも、自分の意見を言わされます。しかし日本では、家では親の言うことを聞き、学校では先生の言うことをよく聞く生徒がいい生徒だということになっているので、自分の考えをまとめたり、話したりする機会というのは大変限られています。

 

このため、自分なりの考えを持っている人、それがきちんと言える人が少なくなっています。例えば私が20代後半でアメリカにMBA留学させてもらった際に、同級生の外国人たちから日本のことなどいろいろ聞かれて、「私たち日本人は、こう考える」とか、「私たち日本では、このようにしている」というように、あたかも日本人の代表であるかのように説明を試みたのですが、「それで、お前はどう思うんだ?」と聞かれて、「?」。

 

その際は特段自分自身の考えを持っていなかったので、答えに窮したことがありました。「あれっ? 俺って、日本人の代表のようなつもりで解説していたけど、自分の考えは持っていなかったっけ?」と感じました。その時以来、自分の考えをきちんと持つ、そしてそれを分かりやすく話すよう心掛けるようになりました。

 

「話し方」も重要ですが、その前に「話す中身」、自分は何についてどう思っているのか、どう考えるのかという、自分の考えをはっきりと持つということもそれ以上に重要ですね。そのためには、学校教育でも、「自分の考えを述べる」「他人に分かってもらえるように話す」という場面や、シチュエーションが必要なのではないかと思います。

 

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※本連載は井口嘉則氏の著書『リーダーのための人を動かす語り方』(日本能率協会マネジメントセンター)より一部を抜粋し、再構成したものです。

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