
高齢者のうつ病が見逃されると、心の元気を奪う、認知症を誘発させやすくなります。そばにいる家族でも気づかないことがあるといいます。老人医療に詳しい精神科医の和田秀樹氏が著書『老人入門 いまさら聞けない必須知識20講』(ワニブックスPLUS新書)で解説します。
うつ病が「歳のせい」で見逃される危険
■見逃されやすい高齢者の「うつ病」
ここで心の健康に目を向けてみます。
高齢になると身体的な機能の衰えや認知症(これも脳の機能低下が原因です)ばかり不安視されますが、メンタルヘルスにも老いのリスクが忍び寄ってきます。そして長年、高齢者の医療に携わってきた私から見ると、じつは認知症より怖いのが「うつ病」なのです。
理由はいくつかありますが、その一つに高齢者のうつは軽く受け止められたり、いわゆる「歳のせい」で片づけられやすいという特徴があります。
たとえば「何となくやる気がなくなってきた」「食欲がない」「夜中に何度か目が覚める」「朝も暗いうちから目が覚める」……そういった自覚症状があっても、それがうつのサインだとは本人も周囲も思いません。「歳だから仕方ない」とか「そういうものだろう」で片づけてしまいがちです。
でも、同じ症状が20代30代の若者に起これば、はっきりと「うつかもしれない」という不安を持つし、周囲も心配してくれるでしょう。「一度、精神科に診てもらったほうがいいよ」と言ってくれるかもしれません。
しかも高齢者の場合は、うつに特有の「もうダメだ」とか「死んだほうがいい」といったうつ気分があまり目立つことはなく、どちらかといえば「腰が痛い」とか「身体がだるい」「便秘が治らない」といった身体的な症状を訴えることが多いのです。
その結果、生活全般がどんよりとしてきて溌溂さがなくなります。
着替えをしなくなったり、外出の回数も減ります。どうしても変化のない毎日が続いてしまうようになります。そういう状態が認知症を誘発しやすいというのは想像がつくと思います。
つまり老いてからのうつというのは、放っておけば心の元気を奪って生きる張り合いさえ失わせ、認知症を誘発させやすい状態なのです。しかもそばにいる家族でも気がつかないことがあります。家の中でぼんやりしている高齢者は「歳だからボケてきたかな」ぐらいにしか見えないことが多いからです。
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