(※写真はイメージです/PIXTA)

高齢者のうつ病が見逃されると、心の元気を奪う、認知症を誘発させやすくなります。そばにいる家族でも気づかないことがあるといいます。老人医療に詳しい精神科医の和田秀樹氏が著書『老人入門 いまさら聞けない必須知識20講』(ワニブックスPLUS新書)で解説します。

うつ病が「歳のせい」で見逃される危険

■見逃されやすい高齢者の「うつ病」

 

ここで心の健康に目を向けてみます。

 

高齢になると身体的な機能の衰えや認知症(これも脳の機能低下が原因です)ばかり不安視されますが、メンタルヘルスにも老いのリスクが忍び寄ってきます。そして長年、高齢者の医療に携わってきた私から見ると、じつは認知症より怖いのが「うつ病」なのです。

 

理由はいくつかありますが、その一つに高齢者のうつは軽く受け止められたり、いわゆる「歳のせい」で片づけられやすいという特徴があります。

 

たとえば「何となくやる気がなくなってきた」「食欲がない」「夜中に何度か目が覚める」「朝も暗いうちから目が覚める」……そういった自覚症状があっても、それがうつのサインだとは本人も周囲も思いません。「歳だから仕方ない」とか「そういうものだろう」で片づけてしまいがちです。

 

でも、同じ症状が20代30代の若者に起これば、はっきりと「うつかもしれない」という不安を持つし、周囲も心配してくれるでしょう。「一度、精神科に診てもらったほうがいいよ」と言ってくれるかもしれません。

 

しかも高齢者の場合は、うつに特有の「もうダメだ」とか「死んだほうがいい」といったうつ気分があまり目立つことはなく、どちらかといえば「腰が痛い」とか「身体がだるい」「便秘が治らない」といった身体的な症状を訴えることが多いのです。

 

その結果、生活全般がどんよりとしてきて溌溂さがなくなります。

 

着替えをしなくなったり、外出の回数も減ります。どうしても変化のない毎日が続いてしまうようになります。そういう状態が認知症を誘発しやすいというのは想像がつくと思います。

 

つまり老いてからのうつというのは、放っておけば心の元気を奪って生きる張り合いさえ失わせ、認知症を誘発させやすい状態なのです。しかもそばにいる家族でも気がつかないことがあります。家の中でぼんやりしている高齢者は「歳だからボケてきたかな」ぐらいにしか見えないことが多いからです。

 

次ページイザとなったら要介護認定を受ける

本連載は和田秀樹氏の著書『老人入門 いまさら聞けない必須知識20講』(ワニブックスPLUS新書)より一部を抜粋し、再編集したものです。

老人入門 いまさら聞けない必須知識20講

老人入門 いまさら聞けない必須知識20講

和田 秀樹

ワニブックス

老いに対する正しい知識がないことで、 過度に不安になったり、老いが加速したり、 結果的に不幸な老い方をしている人が多くいます。 そこで本書では、老年医学の専門家による 「これだけは知っておかないともったいない」とい…

80歳の超え方 老いは怖くないが、面倒くさい

80歳の超え方 老いは怖くないが、面倒くさい

和田 秀樹

廣済堂出版

70代は人生の下り坂に差し掛かった時期。一気に滑り台のようにおりていくか、鼻歌でも歌いながら気長におりていくか……。80代、90代を迎える大事な時間である70代をいかに過ごすべきか。30年以上にわたり高齢者医療に携わって…

アドラー流「自分から勉強する子」の親の言葉

アドラー流「自分から勉強する子」の親の言葉

和田 秀樹

大和書房

親の言葉かけが、子どもを東大へ行かせます。 罰しても子どもは勉強しません。なぜなら自分に価値があると思うときに子どもは勇気を持てるからです。アドラーは親子関係を対等なものと考え、子どもが人生の課題に取り組み、乗…

東大医学部

東大医学部

和田 秀樹 鳥集 徹

ブックマン社

灘高→東大理Ⅲ→東大医学部卒。それは、日本の偏差値トップの子どもだけが許された、誰もがうらやむ超・エリートコースである。しかし、東大医学部卒の医師が、名医や素晴らしい研究者となり、成功した人生を歩むとは限らない…

人気記事ランキング

  • デイリー
  • 週間
  • 月間

メルマガ会員登録者の
ご案内

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

メルマガ登録
会員向けセミナーの一覧