私たちは日常生活で人とよく話をしています。それで意思疎通もできていて、多くの人が不自由していないわけですが、それでもなぜ私たちは話すことが苦手なのでしょうか。経営コンサルタントの井口嘉則氏が著書『リーダーのための人を動かす語り方』(日本能率協会マネジメントセンター)で解説します。

 

日本人の論理は、人間関係優先、感情優先

そして3つ目に、理屈の論理ではなく、人間関係及び感情の論理優先であることがあります。日本人はよく論理的でないと言われますが、それは欧米から見た理屈の通った論理で話をしないためです。

 

日本人に論理がないかというと、実はあります。それは、義理人情とか、上下関係とか先輩後輩等の「人間関係の論理」と、「ひどいことをする」とか、「恥をかかされた」とか、「誇らしい」等の「感情の論理」です。日本人の論理は、人間関係優先、感情優先なのです。筋の通った話は、その後、というか、筋の通った話は「つまらない」「面白くない」と言われ、感情で判断されてしまいます。また、あまり筋の通った話をすると、「理屈を言うな!」と叱られます。

 

研修などで、受講者に帰納法とか演繹法等論理学の基礎を教えていると、最初はでたらめです。論理になっていません。例えば、帰納法の例として、「千葉県には、プロ野球の千葉ロッテマリーンズがある。サッカーの柏レイソルがある。バスケットボールの千葉ジェッツがある。だから、千葉県民はスポーツ好きである。」というような珍解答を出してきます。

 

一部上場企業の課長クラスの人たちです。どうでしょう? 本当にそう結論付けられますか? 千葉県民の中には、必ずしもスポーツ好きでない人もいるでしょう。このように反証されてしまうと、この帰納法は成立しないことになるのです。雰囲気の論理というか、ノリの論理でものを言っています。

 

しかし、だからといって、ずっとダメかというと、そうでもありません。論理学の基本的な考え方を教え込むと、やがてきちんとできるようになります。つまり、基本的な論理というものを学んでいないからできないのであって、きちんと学んで理解できれば、できるようになるのです。ただ、それでも苦手な人は中にはいます。一般的にいうと、技術系の人の方が論理に強い傾向にあります。

 

つまり、いわゆる論理的に考えるとか、論理的な物言いをするトレーニングを積めば、できるようになるのですが、普段からそうしていないので、いざ論理的に話をするとなるとうまくできないわけです。「話し方」は、簡単なやりとりであれば、あまり論理性が求められませんが、すこしまとまった話をするとなると、筋の通った話をする必要があるのです。ですから、論理の立て方を学ぶ必要があるわけです。

 

このようにみてくると、「話し方」がうまくなるには、①文脈が共有できていない人たちに対して、文脈を説明しながら、まとまった話をする機会を多く持つように必要があること、②同調圧力に負けず、自分としての考えを持つようにする必要があること、③筋道を立てた話になるように、話の組み立てを考えて話をするようにすることが必要なのです。

 

井口 嘉則
オフィス井口 代表

 

 

※本連載は井口嘉則氏の著書『リーダーのための人を動かす語り方』(日本能率協会マネジメントセンター)より一部を抜粋し、再構成したものです。

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