私たちは日常生活で人とよく話をしています。それで意思疎通もできていて、多くの人が不自由していないわけですが、それでもなぜ私たちは話すことが苦手なのでしょうか。経営コンサルタントの井口嘉則氏が著書『リーダーのための人を動かす語り方』(日本能率協会マネジメントセンター)で解説します。

 

日本人の話が下手な3つの根本的な理由

■話すことが苦手な日本人

 

このように学校教育では「話し方」を学べなかったわけですが、私たちは日常生活で人とよく話をしています。それで意思疎通もできていて、多くの人が不自由していないわけですが、それでもなぜ私たちは話すことが苦手なのでしょう。

 

原因は3つほどあるかと思います。

 

1つ目は、コミュニケーションが文脈依存型であることです。文脈というのは、英語でコンテクストといいますが、前後関係や、事情、背景、状況などのことを指します。何がどうなっているかということですが、日本語及び日本社会は、「ハイコンテクスト社会」と言われ、お互いに文脈として共有しているものが多いので、あまり多くを語らなくても意味が通じます。

 

昔、「男は黙ってサッポロビール」というテレビCMがありましたが、このCMの場合、夫が仕事から帰宅し、黙ってリビングのテーブルにつくだけで、妻が冷蔵庫からビールを出し、コップとセットで渡すというもので、この間、夫婦の会話は「ただいま」「おかえりなさい」以外ほとんどありません。それでも習慣から、以心伝心通じてしまうわけです。

 

言語学者の友人が、家族の間の会話を分析しようとして、何世帯かの家族の協力を得て、録音させてもらいましたが、ほとんど意味がある会話がなされず、分析しようがなかったという話を聞いたことがあります。つまり、あまりしゃべらなくても家族の間では意思疎通ができて、それで生活が成り立つのです。皆さんも、普段の自分の会話を思い出してみてください。

 

これが、欧米に行くともっとたくさんしゃべらなくてはなりません。ドイツ滞在が長かったある会社の社長は、「ドイツでは毎朝、妻に『愛してるよ』と言わなければなりません。」「一方日本に帰ってきて、同じようなことすると、逆に妻から浮気でもしているのではないかと疑われます。」と、笑っていました。

 

このように、お互いに親密である家族の間柄ですら、日本の場合と、欧米の場合とで大きく異なります。

 

日本はハイコンテクスト社会なので、多くを語らなくても済んでしまうのです。ですので、大勢の人の前でまとまった話をするとなると、慣れていないため、話し方に戸惑うわけです。結婚式等のスピーチの仕方の本がいまだに売れているのは、その所為ですね。

 

2つ目は、同調圧力が強く、個人としての意見を持ちにくいということがあります。

 

日本人は、聖徳太子の一七条の憲法に見られるように、「和をもって貴しとなせ」なので、集団・組織の中での「調和」が重視されます。このため、異論を唱えると、白い目で見られます。また、タテ社会なので、上司・上役の考え方に同調することが求められます。

 

このため、周りや会社・上司の考えに合わせることばかりしているうちに、自分としての考えがどこかに行ってしまい、特段話すことがなくなってしまいます。特に、日本の組織の中では調整型のリーダーが多く、私の観察では、その比率は約半数を占めます。この調整型のリーダーは、AさんとBさんの間や、C部とD部の間を取り持って話をまとめるのですが、自分なりの意見を持っていると、調整の邪魔になります。

 

ですから、自分の意見は持たないようにし、両者の間を取り持ったり、または半分半分歩み寄ってもらったりというようなふうにして調整を行います。そうしてるうちに、自分の意見がなくなってしまいます。そういう上司に物足りなさを感じる部下の方もいるのではないでしょうか?

 

最近一部の大学でリーダーシップ教育が行われるようになって、若手が自分の意見を持つようになり、それで企業に就職して自分の意見を言うと、煙たがられるという話を聞きます。

 

言われた方の上司は、黙って自分の言うことに従ってくれる部下の方がいいので、意見を言われると対処に困るのです。上司も、意見を言われても、きちんと筋道立てて部下を説得できないので、最後は、「いいから、黙って言われた通り仕事をしてくれ。」となってしまいます。会社の中では、筋道立てて説明できないことが多いのです。

 

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※本連載は井口嘉則氏の著書『リーダーのための人を動かす語り方』(日本能率協会マネジメントセンター)より一部を抜粋し、再構成したものです。

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