(※写真はイメージです/PIXTA)

多くのアパート経営者が頭を悩ませる「家賃の不払い」。オーナーの多くは管理会社に一任しているものの、入居者が管理会社による再三の督促にも応じず、直接連絡もつかない場合、コンタクトをとるための手段としての「張り紙」は許されるのでしょうか? 自身も不動産投資家としての顔を持つ山村暢彦弁護士が解説します。

裁判例が分けた明暗

張り紙問題については、①3ヵ月分家賃未納のため張り紙にて督促したところ、大家の行為を適法だと判断した裁判例(東京地判、昭62.3.13、判例時報1281号)がある一方、②1ヵ月分の家賃滞納に対し張り紙にて督促し、賃借人から大家さんに対して、200万円の慰謝料を認めた裁判例があります(東京地判、平26.9.11、ウエストロー・ジャパン)。

 

これらの2つの裁判例を統一的に説明するためには、家賃の滞納月数が1ヵ月と3ヵ月で結論が分かれたといえそうです。

 

家賃滞納3ヵ月以上ともなると、重大な契約違反だとして立ち退き請求まで認められるレベルです。そのため、このレベルで賃料滞納があれば、やや強硬的な張り紙での督促も認められたと考えられます。

 

他方、1ヵ月での督促にて張り紙までやるのは、「やりすぎ」ととらえられ、慰謝料請求まで認めたと整理できそうです。

 

たしかに1ヵ月というのは、払い忘れや、(契約違反とはいえ)やむにやまれぬ資金事情の悪化で支払いが遅れたという可能性もあるので、相手のプライバシーや名誉権を毀損する可能性をおかしてまで(張り紙での)督促はやりすぎという判断もあり得るのでしょう。

 

ただ、私見ではありますが、この2つの裁判例は、判断された日時が約20数年以上も離れていることも見過ごせない点だと思います。適法と判断された裁判例は昭和62年であるのに対して、違法と判断した裁判例は平成26年と近年といえるレベルです。

 

プライバシーや名誉権、特に個人情報保護の意識というのは、近年高まってきた問題意識です。その社会的な認知度や権利の要保護性の高まりに応じて、結論が変わってくる可能性があるといえるでしょう。

 

そのため、「3ヵ月以上賃料滞納があったから、張り紙をしてよい」と過去の裁判例を読むことは危険であり、「1ヵ月滞納での張り紙はアウト」「3ヵ月以上の滞納であっても、近年行うのは危うい行為だ」との認識で対応を進めるべきだと思います。

 

SNSなどの誹謗中傷問題をはじめ、名誉権、個人情報保護の裁判例などは近年どんどんアップデートされていますから、古い裁判例をもとに現在の行為を適否の判断材料にするのは危険といえるでしょう。

 

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本記事は『アパート経営オンライン』内記事を一部抜粋、再編集したものです。

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