(※写真はイメージです/PIXTA)

父親の相続時に長女・長男と対立し、いまも関係が悪いままの二女・三女。ふたりは、自分たちも年齢を重ねて相続が身近なものとなったとき、過去の諍いから思うところがあり、相続対策を決意しました。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに、生前対策について解説します。

父の相続時に対立した4人きょうだいの「その後」

今回の相談者は、それぞれ50代と60代の遠藤さん姉妹、優子さんと陽子さんです。年齢が高くなり、自分たちの相続について相談に乗ってほしいと、筆者の元を訪れました。

 

遠藤さん姉妹は4人きょうだいの二女と三女で、きょうだい構成は、長女・長男・二女・三女となっています。

 

遠藤さん姉妹の両親は地元特産品を取り扱う自営業で、一時はかなりの収益を上げていました。しかし、子どもたちが10代のころはまだ経済状況が厳しく、家庭内は殺伐としていたといいます。

 

「脱サラした両親は、末っ子の私が小学生1年生のときに事業をスタートさせました。その後はとにかく忙しく、ほとんど家にいませんでした。途中からは姉と兄も駆り出され、私たちふたりはずっと家に置いてきぼりだったのです」

 

優子さんと陽子さんが高校生の頃は扱う商品も増え、さらに忙しくなりました。しかし、そのタイミングで母親が過労により亡くなってしまったのです。

 

「家族を支えるため、家事一切の切り盛りや、4人の祖父母の介護などもすべて私たちふたりで手分けして行いました。私は大学に進学したものの退学し、陽子は受験する余裕もなく、気づけば家の事情に振り回されたまま、30代になっていました」

 

4人の祖父母をそれぞれ見送ったあと、父親が認知症を発症。姉と兄は自分の家庭と仕事が大変というばかりで、これまで同様、一切の手助けを行いませんでした。そして数年後、父親が亡くなり、相続が発生。ところが姉と兄は、遺産のほとんどは商売に関係するもので事業の継続に不可欠なため、優子さんと陽子さんには相続させるものがないというのです。実はこのとき、筆者はおふたりから相談を受けて間に入り、遠藤さん姉妹にほぼ法定通りの相続財産の取得を実現させました。

「進学や結婚ができなかったのは、自分のせいでしょ」

「家族の世話と介護に何十年も追われ、私たちは進学も結婚もできませんでした。父からは〈本当にすまない、絶対悪いようにはしないから〉といわれ、姉と兄からは〈生活の心配はさせないから〉といわれていたのに…」

 

「父が亡くなったあと、姉から〈家族に甘えたのは自分でしょ? 進学できなかったのは甘え。結婚できなかったのも自分のせい。自分で自分の責任を取ったら?〉といわれたときには、本当に許せない思いでした」

 

当時の話をひとしきりしたあと、優子さんは今回の相談を切り出しました。

 

「あのあと、当然ですが、兄と姉とは険悪になりまして。私たちはおかげさまでそれぞれアパートと駐車場を相続できたので、食べていくには困らないのですが、姉と兄は両親から引き継いだ事業を失敗させてしまったんです」

 

末っ子の陽子さんが話を引き取りました。

 

「甥姪からも、〈仕事ができなくなったのは、叔母さんたちが欲張ったからだ〉とさんざんいわれまして。私たちからしたら、お金なんかいいから、時間と若さを返してほしい。本当に腹が立って…」

 

父親の相続手続き後も「姉+兄」vs.「優子さん+陽子さん」で対立が深まり、関係修復は極めて難しい状況となっていました。

 

「ふたりで話し合ったのですが、もしどちらかが亡くなったら、遺産は姉と兄にもいくわけじゃないですか。せっかく手に入れた財産なのに、それは回避したいなと思っていまして」

 

優子さんと陽子さんは、優子さんが所有する賃貸アパートの一室に同居して生活しています。どちらかが亡くなり相続が発生すると、また姉と兄と遺産分割協議の席につかなければなりません。

 

そのことから、筆者と提携先の税理士は、遺言書を作成することをお勧めしました。

姉や兄との接触を回避するには、遺言書が有効

ふたりは自分の財産について、優子さんは陽子さんへ、陽子さんは優子さんへ全額相続させる旨明記した公正証書遺言を作成しました。きょうだいには遺留分がないため、これでふたりの考え通りの相続が実現します。

 

「先のことはわかりません。もちろん不安もありますし、いまだって贅沢ができるわけではありません。でも、姉妹で暮らすのは気楽ですし、毎日おいしいものを作って食べて、のんびり散歩して、満足しています。煩わしい思いをするのはもうイヤです」

 

おふたりは明るい表情で筆者の事務所を後にしました。

 

遺言書を残さなければ、おふたりが懸念したとおり、父親の相続時に争った姉・兄と、再び話し合いを持たなければなりません。これは大変なストレスとなります。また、せっかく手にした自分の財産を、絶対許せないと思った相手に託すことになります。

 

甥姪たちの言葉からもわかるように、争った相手だけでなく、その親族とも関係が悪化することは珍しくなく、その点を考えるなら、遺言書を残して争いの種を取り去っておくことが重要です。それが、日々の心の平穏にも大きく貢献することになるのです。

 

 

※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

 

曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士

 

◆相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

 

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

 

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本記事は、株式会社夢相続のサイト掲載された事例を転載・再編集したものです。

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