(※写真はイメージです/PIXTA)

ある一組の夫婦は、子どもはないながらも、長年にわたり円満な関係を築いてきました。しかし、中高年となった妻は健康問題を指摘されたことで、ある不安を覚えます。それは、資産家の父親から相続した財産についてでした。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに、生前対策について解説します。

「私が亡くなれば、私の遺産は夫親族のものに…」

今回の相談者は、50代会社員の山田さんです。実子がいないため、自分なきあとの相続について不安があるということで、筆者の元に訪れました。

 

「夫とはおしどり夫婦といわれるくらい仲がいいのですが、残念ながら子どもがいなくて。私に万一があれば、相続人は夫と、3歳年下の妹です。でも、夫の方が相続分が多いですから、財産の大半は夫のものになりますよね…」

 

山田さんは初婚ですが、夫は再婚で、先妻との間に子どもがいます。そのため、もし山田さんが先に亡くなると、遺産の大部分は夫に相続され、いずれは先妻との間の子どもに渡ることになり、それを回避したいと考えているそうです。

 

山田さんの父親は資産家で、山田さんと妹が30代のときに亡くなりました。母親が亡くなったのはさらに前だったことから、父親の遺産はすべて、山田さんと妹が相続したのです。

 

「妹は中学校の同級生と結婚したため、相手の実家もすぐ近所でした。父は妹夫婦のために、自宅隣の土地に家を建ててやったのです。妹はずっと父親のそばに暮らして、なにかと父の面倒を見てくれました。私のほうは大学の先輩だった夫と結婚し、夫の転職をきっかけに、都内のいまのマンションで暮しています」

 

父親が亡くなったとき、遺言書はありませんでしたが、山田さんは妹とよく話し合い、近所で面倒を見てくれた妹が6割、離れて暮らしている山田さんが4割という配分で相続しました。しかし、生まれ育った自宅は、長女の山田さんが相続しました。

 

「父が亡くなったときは、私もまだ30代だったので、子どもを持つつもりだったのですが…」

主治医から指摘された「持病の悪化」

山田さんの実家は横浜市で、エリア的にもかなりの好立地です。自宅以外の土地は、賃貸アパートや駐車場として活用しており、かなりの収益もあります。山田さんは、夫が定年退職したタイミングで、妹夫婦が隣に暮らす実家へ戻りたいと考えていました。

 

「私はもともと持病があり、ずっと治療を続けていましたが、数年前に主治医から悪化を指摘されてしまったのです」

 

病気の悪化を告げられたとき、山田さんの夫は医師の前であるにもかかわらず、泣き崩れてしまったといいます。

 

「主治医の先生は、〈今後の経過がどうなるかはだれにもわかりません、希望をもって奥さんを支えてください〉と、私ではなく夫のほうを励ましていました」

 

しかし山田さんは、自分の病気よりもむしろ、父親から相続した財産のことが気になりはじめました。

 

「先祖代々、父の家系が守ってきた大切な土地です。遺言書こそありませんでしたが、父はアパートや高額な保険金を残すなどして、それなりの対策をしてくれていました。おかげで、ほとんど土地を手放すことなく相続できたのです。しかし、私は子どもがいませんから、私が先に亡くなれば、せっかく受け継いだ土地の大半は夫のものになります。そうしたら、いずれは先妻の子どもに相続されてしまう…」

 

山田さんは、夫の子どもに会ったことがありません。また、いくら愛する夫の子どもであっても、山田さんから見れば他人です。そのため、遺産が渡るのは納得できかねるといいます。

 

「妹には子どもが2人います。私が受け継いだ父の土地は、姪っ子と甥っ子に相続してほしいのです」

遺言書を作成し「父からもらった財産」はすべて妹へ

筆者と提携先の税理士は、山田さんに遺言書の作成をお勧めしました。

 

現状のままだと、相続の割合は夫が4分の3、妹が4分の1です。山田さんが懸念する通り、遺言がなければ、財産の大部分を夫が相続することになります。

 

山田さんが作成した遺言書は「父親から相続した山田さん名義の財産のすべてを妹に相続させる」というものでした。夫が先立つのであれば、このような心配は不要ですが、そればかりはだれにもわかりません。

 

「私が結婚後に築いた財産と、生命保険で、夫には納得してもらおうと思います。妹の家と隣同士の実家をはじめ、父からもらった不動産は、姪っ子か甥っ子に継いでもらいたいです」

 

遺言書を作成したことで、山田さんは気持ちが落ち着いた、これで安心したと話してくれました。

遺産配分の「口約束」は危険

子どもがいない夫婦の相続はもめごとが起こりやすく、山田さんのケースもその典型です。被相続人が遺言書を残さなければ、相続人は配偶者と被相続人の親族(親が存命なら親、親が亡くなっていたら、きょうだい・甥姪)ですが、最も相続分が大きいのは配偶者です。

 

被相続人の配偶者に相続された財産は、いずれ配偶者の親族へと相続されていき、被相続人の家系に戻ることはありません。

 

このようなケースで起こりやすいもうひとつの問題が、口約束による遺産配分のトラブルです。

 

もし山田さんが「実家の土地建物と所有する収益物件は妹に渡したい」などと口頭で伝え、夫と妹が了承していたとしても、相続発生後、夫に口約束を反故にされても文句はいえません。配偶者の相続分は、法定割合で決まっているからです。もちろん問題なく約束通りにできるケースもあると思いますが、確実に妹へ相続させるには、口約束ではだめなのです。

 

また、もし山田さんの夫が先に亡くなった場合は、事前に対策をしない限り、遺産の半分は先妻との間の子どもに相続されます。その点も踏まえ、夫婦間、親族間で十分な話し合いと対策をしておくことが重要です。

 

※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

 

曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士

 

◆相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

 

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

 

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本記事は、株式会社夢相続のサイト掲載された事例を転載・再編集したものです。

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