(※写真はイメージです/PIXTA)

地主のひとり娘と結婚し、婿養子となった男性は、義父が亡くなり相続が発生したことで、手続きに奔走します。残された起源は4ヵ月。納税資金の確保という大きな課題を抱え、間に合わせることができるのでしょうか。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに、生前対策について解説します。

地主一族の婿養子、義父の相続手続きに奔走

今回の相談者は、50代男性の山本さんです。妻の父親が亡くなり、相続が発生したということで、筆者の元に相談に見えました。

 

「山本家は代々の地主なのです。私の妻はその家の一人娘で、私が婿養子となりました。妻の両親とはすでに20年以上同居してきました」

 

土地が広いと相続が大変だということで、妻の祖父の相続の際、一部の土地を義母や妻の名義にするなど、ある程度分散しました。しかし義父は、それ以上の節税対策をしていませんでした。

 

「今回の妻の実家の相続で、相続税を納付するにしろ、できるだけ節税できないかと思いまして…」

 

初回の面談の時点で、申告期限まで4ヵ月を切っていました。

 

「あれこれ検討しているうちに、時間ばかり過ぎてしまい、もう手自分たちのに負えないと腹をくくりました」

 

山本さんは仕事の関係上、多少の不動産の知識があり、話がスムーズでした。また、几帳面に財産の整理をされていたため、評価の概算もすぐに出すことができました。

 

「心配なのは、納税資金のことなのです。予定通りに土地を物納できるのか、売却できるのか…。万一、土地の物納や売却でも納税資金が足りなければ、自宅周囲の土地の売却もやむなしかと思っています」

 

財産のなかには、義父が30年ほど前に購入した山林がありますが、いまは宅地化が進んで区画整理され、周囲は閑静な宅地になっています。所有地は雑木林のようになっており、毎年の草刈りだけでも大変な手間であることから、山本さんはこの土地を納税用にしたいと考えています。

使える手段をすべて活用し、相続税の圧縮を実現

筆者と提携先の税理士は、山本さんに下記のような提案を行いました。

 

①「配偶者の特例」を最大限活用して節税する

 

相続人は全員同じ世帯に暮しており、密なコミュニケーションができています。義母と妻からは、どのように分けてもいいという了解を得ていました。今回、「配偶者の特例」を受けるため、財産の半分を義母、残り半分を夫婦で相続することを目標としましたが、土地の評価はぴったり半分にはいきません。

 

そこで、50%ぎりぎりの相続割合にするため、私道の部分を親子で共有して調整し、最大限の節税効果を得られるようにしました。

 

②相続人が目的に沿って土地を相続する

 

二次相続でも相続税の不安があるため、次回の節税対策が必要だと思われました。そこで義母には、次の節税対策として有効利用できる土地を中心に相続してもらうことを検討しました。納税には、土地の物納・売却を希望していたことから、候補地は納税が必要な山本さん夫婦の共有とすることを分割の核とし、調整しました。

 

●土地の評価を下げる

 

自宅周辺の土地は全部を測量し、それぞれの利用毎に利用区分図を作成しました。ひとつの敷地の中に、自宅、アパート、駐車場、貸し地、貸家といろいろな用途で利用していることから、利用ごとの地形や面積を出します。そうすることで不整形地ができ、減額できることになります。この評価方法で、当初試算した納税額より30%程度の減額ができました。

 

●不要な土地は売却・換金する

 

納税額からすると、「不要な土地」の半分程度を売却すれば資金面は足りますが、半分を残しても維持管理が大変だと判断し、全部を売却することにしました。納税額の概算が出た頃から売却活動に入ると、地元の建て売り業者から購入申し込みが入り、契約がまとまりました。代金の授受も納税に間に合うよう申告の前日にし、無事に納税は完了。まとまった現金も手許に残せました。

 

●義母の節税対策を実施

 

義母が相続した土地を有効利用することを提案して、賃貸マンションを建設しました。何もしないままでは、次回もまた高額な相続税が予想されます。次は配偶者の特例が利用できない分ぶん、納税額が大きくなってしまうのです。そのリスクを回避するため、賃貸マンションを建設して節税対策をするとともに、家賃収入を得ることで生活費や納税資金にも充てることを考えました。

 

●法人を設立する

 

義母はこれまでも駐車場収入があり、今後、賃貸マンションの収入が増えると所得税も増え、現金が貯まっていくと予想されます。すると、積み上がった現金もまた相続財産となり、課税の対象となります。そうした税金を減額するために、賃貸管理の法人を設立し、給与で収入を分散し、節税することにしました。

要所要所で、協力者が出現した理由

上記のように、納税を減らすには配偶者の特例を利用することが効果的で、50%の相続割合にするため、土地の共有割合で調整することもあります。また、土地はそれぞれの利用単位で評価をすると不整形地ができ、減額できます。利用しない土地や管理が大変な土地は相続のタイミングで売却することも有益です。

 

今回、さまざまな方法を検討・シミュレーションした結果、節税もでき、納税後の現金も残すことができました。

 

申告期限まであまり余裕はありませんでしたが、何事も予定どおりにうまく進みました。

 

買い主側に納税の事情を理解してもらい、短期間に資金の準備をしてもらった結果、急な話であったにもかかわらず、土地の売却の代金授受が申告期限の前日に間に合いました。ほかにも、必要な情報を寄せてくれる協力者が要所要所で現れるなど、これも山本家のみなさんのお人柄や、普段の心使いによるものだと感じました。

 

各関係者とマイルドなコミュニケーションを行う山本さんのお人柄が、スムーズな相続の実現に効果を発揮したといえます。

 

※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

 

曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士

 

◆相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

 

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

 

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本記事は、株式会社夢相続のサイト掲載された事例を転載・再編集したものです。

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