(写真はイメージです/PIXTA)

損害賠償請求などが認められた「パワハラ」を問題とする裁判事例はどのようなものがあるのでしょうか? 今回は職場いじめが認められ、慰謝料計1,357万円の請求を命じられた「パワハラ」裁判事例のほか、特性ごとに6つに分類した事例をAuthense法律事務所の西尾公伸弁護士が紹介します。

 

労働施策総合推進法による「パワハラの定義」

事例の紹介に入る前に、パワハラの定義を確認しておきましょう。パワハラの定義は、労働施策総合推進法という法律によって決まっています。この法律によれば、次の3つをすべて満たすものが、パワハラに該当するとされています(※1)。

※1・参考 厚生労働省:ハラスメントの定義

 

■優越的な関係を背景とした言動であること

「優越的な関係を背景とした言動」とは、業務を遂行するにあたって、その言動を受ける労働者が行為者に対して抵抗や拒絶することができない可能性が高い関係を背景として行われるものをいいます。上司から部下への行為がその典型例ですが、部下や同僚からの行為であっても、関係性などによってはこれに該当する可能性があります。

 

■業務上必要かつ相当な範囲を超えたものであること

「業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」とは、社会通念に照らし、その言動が明らかに当該事業主の業務上必要性がない、またはその態様が相当でないものをいいます。この判断は、その言動の目的や内容、頻度など、さまざまな要素を総合的に考慮して行うものとされています。

 

■労働者の就業環境が害されるものであること

「就業環境が害される」とは、その言動によって労働者が身体的や精神的に苦痛を与えられ、就業環境が不快なものとなったために能力の発揮に重大な悪影響が生じるなど、労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることをいいます。この判断にあたっては、「平均的な労働者の感じ方」を基準とすることが適当であるとされており、問題となっている労働者の感じ方を基準とするものではないため、注意が必要です。

パワハラの裁判事例:身体的な攻撃型

厚生労働省は、代表的なパワハラの6類型を紹介しています(※2)。ここからは、この6類型に沿ったパワハラの事例を解説していきます。ひとつ目の類型は、暴行や傷害に代表される「身体的な攻撃型」に関する事例です。 
※2 ・参考 厚生労働省:2020年(令和2年)6月1日より、職場におけるハラスメント防止対策が強化されました!

 

ほかの従業員からの暴行などが不法行為にあたると判断された事例

店長代行として勤務していたXが店舗運営日誌に店長Yの仕事上の不備を指摘する記載をしたところ、激高した店長Yから暴力をふるわれました。

 

さらに、その後XがPTSDもしくは神経症である旨の診断を受けており、かつ担当医から仕事の話を控えるよう告げられていたにもかかわらず、管理部長Aから「いいかげんにせいよ、お前。おー、何を考えてるんかこりゃあ。ぶち殺そうかお前。調子に乗るなよ、お前。」などと声を荒らげられ、外傷後ストレス障害に罹患したと主張したものです(※3)。

※3・参考 厚生労働省:【第52回】 「他の従業員からの暴行などが不法行為にあたると判断された事案」 ―ファーストリテイリング(ユニクロ店舗)

 

この事例において、裁判所は、店長Yからの暴行やその後の管理部長Aの発言が共同不法行為にあたるとして、損害賠償請求を認めています。

 

暴行と謝罪の強制が不法行為と判断された事例

Aが家電量販店で携帯用電話機の販売業務に従事していたところ、雇用先の従業員で教育担当のJとI、そして家電量販店の従業員Dから暴行と謝罪の強制を受けた事例です(※4)。

※4・参考 厚生労働省:【第39回】 「暴行及び謝罪強制が不法行為と判断された事案」 ― ヨドバシカメラほか事件

 

JはAに対し、怒号を発しつつ販売促進用ポスターを丸めた紙筒様のもので頭部を強く約30回殴打したのち、同紙筒が破損したため、机上のクリップボードの表面および側面を使ってある程度力を込めて、さらにAの頭部を約20回殴打しました。また、DはAの業務上の問題について激昂し、Aの右横からAの大腿の外側膝付近を3回にわたって間髪を入れずに強く蹴りました。

 

さらに、IはAの入店時間に関する虚偽の電話連絡について怒鳴りつけて叱責するとともに、左頬を手拳で数回殴打し、膝を使って右大腿部を蹴り、頭部に対して肘や拳骨で殴打する暴行を合計約30回行いました。そのうえ、退職をしようとしたAがIの引き留めに応じなかったため、IがAの襟首を掴んで、Aをソファーのうえに四つん這いの状態にさせ、手拳や肘で殴打したり足や膝で蹴ったりする暴行を合計約30回にわたって加えたものです。

 

その後、AはIの指示により通信会社の従業員に対し、遅刻と入店時間についての虚偽連絡について謝罪をしています(謝罪強制)。

 

この事例において、裁判所は、暴行及び謝罪強制は不法行為に該当すると判断したうえ、直接の加害者ではない雇用先の代表者についても、一部の暴行について共同不法行為責任を認めました。

 

背中を殴る・膝を足の裏で蹴る…上司から受けた暴力による損害賠償請求事例

原告A、Bの上司である被告は、A、Bの席の近くに扇風機を置き、風が直接両名に当たるよう向きを固定したうえで、ときには「強風」の設定で直接扇風機の風を当て続けました(※5)。

※5・参考 厚生労働省:【第17回】「上司から受けたパワハラを理由とした損害賠償請求」 ― 日本ファンド(パワハラ)事件 

 

また、Aが被告の提案した業務遂行方法を採用していないことについて事情を聞くなどしないままAを叱責して「今後、このようなことがあった場合には、どのような処分を受けても一切異議はございません。」との始末書を提出させたうえ、会議でAが業務の改善方法について発言したことに対し「お前はやる気がない。なんでここでこんなことを言うんだ。明日から来なくていい」と怒鳴りました。

 

さらに、BとBの直属上司に対して「馬鹿野郎」「給料泥棒」「責任を取れ」などと叱責し、Bに「給料をもらっていながら仕事をしていませんでした。」という文言を挿入させたうえで始末書を提出させました。また、別の原告Cの背中を殴打したり面談中に膝を足の裏で蹴ったりしたうえ、昼食中にはCに対して「よくこんな奴と結婚したな、もの好きもいるもんだな。」などと発言しています。

 

この事例において、裁判所は、これらの行為はいずれも不法行為にあたり、被告の行為について会社に使用者責任が認められるとしたうえで、被告と会社に対し、原告らにそれぞれ次の支払いをするよう命じています。

 

・抑うつ状態発症、休職とパワハラ行為の因果関係を認め、慰謝料60万円+治療費、休業損害

・慰謝料40万円

・慰謝料10万円

 

次ページパワハラの裁判事例:精神的な攻撃型

本記事はAuthense企業法務のブログ・コラムを転載したものです。

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