(写真はイメージです/PIXTA)

近年、ハラスメントの法的整備が進むなか、パワハラに関する裁判事案が増えています。パワハラに関する裁判では、直接の加害者のみならず、会社が責任を問われる事例も少なくありません。そこで、Authense法律事務所の西尾公伸弁護士が4つの具体的な裁判事例とともに、パワハラの定義と社内で発生した際の対処法を解説します。

パワハラの「3つの定義」

社内でパワハラが起きると、裁判に発展してしまう可能性があります。では、パワハラとはどのようなものを指すのでしょうか?

 

はじめに、法律が定めるパワハラの定義と、パワハラの類型を確認しておきましょう

※ 厚生労働省:パワーハラスメントの定義について
 

パワハラの定義は、労働施策総合推進法という法律によって決まっています。この法律によれば、パワハラとは、次の3つの要件をすべて満たすものであるとされています。

 

1.「優越的な関係」に基づいて行われる

1つ目の要件は、優越的な関係に基づいて行われることです。これは、その行為を受ける労働者が行為者に対して抵抗や拒絶することができない可能性が高い関係下で行われることを意味します。

 

典型例は上司から部下に対する行為ですが、これに限られるわけではありません。

 

たとえば、同僚や部下からの行為であったとしても、次のような背景がある場合にはパワハラに該当する可能性があります。

 

・その行為を行う者が業務上必要な知識や豊富な経験を有しており、その者の協力を得なければ業務の円滑な遂行を行うことが困難である場合
・集団による行為で、抵抗や拒絶することが困難である場合

 

2.業務の適正な範囲を超えて行われる

2つ目の要件は、業務の適正な範囲を超えて行われることです。

 

これは、社会通念に照らした際に、その行為が明らかに業務上の必要性がないものであることや、その態様が相当でないものであることを意味します。

 

「社会通念」とは、社会一般に通用している常識や見解のことをいい、法律を適用する際の判断基準の1つとして使用されています。

 

3.身体的もしくは精神的な苦痛を与える、または就業環境を害する

3つ目の要件は、身体的もしくは精神的な苦痛を与えること、または就業環境を害することです。

 

次のいずれかの状況が、これに該当すると考えられます。

 

・その行為を受けた者が身体的もしくは精神的に圧力を加えられ、負担と感じること
・その行為によってその行為を受けた者の職場環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じるなど、その労働者が就業するうえで看過できない程度の支障が生じること

 

なお、これらの判断にあたっては個々の感じ方、つまり実際に被害を受けた当事者個人の感じ方で判断するのではなく、「平均的な労働者の感じ方」、つまり社会通念と同じような基準で判断することとされています。

 

次ページパワハラの「6類型」と社内に起こる影響

本記事はAuthense企業法務のブログ・コラムを転載したものです。

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