(※写真はイメージです/PIXTA)

高齢の母が亡くなり、残された主な財産は、広い自宅と収益物件。相続人は姉妹ふたりで、不動産を1つずつ相続し、あとは現金で帳尻を合わせれば円満解決のはずでした。しかし、姉の主張に妹が激怒し、遺産分割協議の場が修羅場に…。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに、生前対策について解説します。

「負債を引いても9,000万円ぐらい」と税理士が…

今回の相談者は、50代の石川さんです。同居していた母親が亡くなり、相続が発生したということで、筆者の事務所を訪れました。

 

石川さんの母親の相続人は、石川さんと石川さんの妹の2人です。母親の遺産は石川さんも同居していた広い自宅のほか、9世帯の賃貸マンション、預金は多くなく、500万円程度です。

 

石川さんと妹は、相続手続きのため、母親が毎年の確定申告を依頼している税理士のところへ相談に行きました。

 

相談した税理士の先生は、石川さんの母親の不動産は、賃貸マンションを建てたときのローンが残っていることから、合算すると基礎控除の範囲内に収まり、相続税の申告は必要ないと説明したそうです。

 

「税理士の先生は、〈自宅とマンション、売ればどちらも6,000万円ぐらい、合わせると負債を引いても9,000万円ぐらいになりますかね〉とおっしゃって。想定外の金額に、私たちは顔を見合わせたんです」

亡き母のもとに身を寄せていた、姉のホンネ

筆者と提携先の税理士が、石川さんに用意してもらった資料をもとに、改めて財産評価をしてみると、自宅にも賃貸マンションにもそれぞれ負債があり、両方合わせても正味財産は4,500万円程度です。先の税理士の説明の相続評価からはかけ離れたものとなりました。

 

「えっ、本当ですか!? たったそれだけ…」

 

こちらの税理士の計算によると、石川さんの母親の財産評価は、自宅が3,000万円、負債が多いマンションは1,500万円との計算結果でした。

 

税理士は、不動産を姉妹でひとつずつ相続し、平等にするために価値の高い遺産をもらった方が代償金を支払うことを提案しましたが、石川さんの表情は晴れません。

 

筆者がじっくり話を聞いたところ、石川さんは本音を語ってくれました。

 

「私はバツイチで、離婚後は一人息子を連れ、母のもとに身を寄せて生活をしてきました。妹の夫は会社経営者で、生活に余裕があるのです。私と息子は生活の拠点である実家を出られませんし、母のマンションがなければ生活できません。不動産は両方私がもらいたい…。でも、現金がないので代償金は…」

 

税理士は、不動産を石川さんが相続する場合、法定割合として、評価の半分相当の2,250万円の代償金を妹に払う必要があると前置きし、ここはお互いに少しずつ譲り合って、不動産と預貯金を分けてはどうかとアドバイスをしました。

 

ところが石川さんは「家がなくなったら困る」「収入が減ったら困る」と繰り返し、不動産を両方もらったうえで払うものも最小限にしたいと主張します。

姉の主張に妹は激怒、最終的な着地点は…

その後、筆者と税理士が間に入り、石川さん姉妹と遺産分割についての打ち合わせの場をもうけましたが、石川さんの主張に妹は呆れ、おしまいには激怒。お互いの人生を非難しあうという、激しい修羅場と化してしまいました。

 

複数回の打ち合わせでもボタンの掛け違いはどうにもならず、結局、未分割のまま賃貸収入は2等分とし、自宅には石川さんが住み、修繕費等も負担していくことで、なんとか着地しました。

 

相続の場合は、路線価を基準として財産評価を行うため、「売れたらいくら」という表現をしないことが大原則です。今回は、当初の税理士による「売れば6,000万円」という不用意な発言により、姉妹双方が「捕らぬ狸の皮算用」をしたことが、亀裂のきっかけだったともいえます。

 

とりあえず相続は乗り切りましたが、根本的な解決には至っておらず、これから時間をかけて双方が歩み寄ることが必要だと思いました。しかし、子どものいない妹は、いまも石川さんの一人息子とは連絡を取り、かわいがっていることから、今回の件は家庭裁判所に持ち込んで白黒つけなかったのは正解であり、しばらく間をおいて雪解けを待つのがいいのではと考えています。但し、登記法が改正されて相続後3年以内に相続登記しなければいけないことが決まりましたので、これ以上は先延ばしせずに決めていくことをお勧めしていきます。

 

 

※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

 

曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士

 

◆相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

 

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

 

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    本記事は、株式会社夢相続のサイト掲載された事例を転載・再編集したものです。

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