(※写真はイメージです/PIXTA)

土地持ちの父親が亡くなり、相続人は母親と子ども4人というそれなりの人数。とはいえ「平等に分ける」方針の遺産分割案が出たことで、問題はないかに見えました。しかし、そこには円満な親族には見えない、将来のトラブルの種が潜んでいたのです。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに、生前対策について解説します。

土地持ちの父、資産状況が明確で助かったが…

今回の相談者は、50代の公務員の加藤さんです。父親が亡くなり相続が発生しましたが、遺産分割の方法について、現在の計画よりもっといい案がないかアドバイスがほしいということで、筆者の事務所を訪れました。

 

「私は二男なのですが、長男の兄はアメリカ在住、三男の弟は関西在住、長女の妹は九州在住と、みんな生活拠点がバラバラなのです」

 

かくいう加藤さんも静岡県在住で、父親亡きあと、母親がひとりで暮らす神奈川県の家からは離れて暮らしています。

 

加藤さんの父親はサラリーマンでしたが、祖父から農業も引き継いでおり、自宅近くに複数個所の畑を所有していました。しかし、時代が変わって市街化が進み、区画整理も始まったことから、ほとんどが宅地となっていました。

 

加藤さんの父親も相続が気がかりだったようで、農協に勧められ、10年前には8世帯のアパートを建てていました。父親の資産状況ですが、アパートのほかに、自宅不動産、貸店舗、宅地、農地、預貯金といったものがあります。

 

「アパートを1棟建てただけでは不安だったのでしょう。金融機関の相続セミナーに参加したらしく、相続税の予想額試算表を作成してもらっていました。試算表には、父が所有する不動産の案内図や公図、謄本など、関係資料も添えてありました」

「きょうだいで平等にできればいいと思っています」

加藤さんの父親が相続の準備をしていたことから、あらためて財産の確認をすることもなく、スムーズだったそうです。また、加藤さんは生前の父親からその書類を見せられて説明を受けており、ある程度は相続のイメージをつかんでいました。

 

「私のきょうだいは全員、仕事や結婚で家を離れていまして、両親とは同居していません。そのため、跡継ぎという意識はなく、最終的にはきょうだい4人全員でほぼ4等分にできればいいと思っているのです」

 

加藤さんの父親の財産のほとんどは不動産であるため、評価を下げられたらと考えているそうです。また、申告書の準備で何度もやりとりが必要になることを想定し、相続の申告は、静岡県の加藤さんの自宅近くの税理士事務所に依頼していますが、念のためとして、筆者にセカンドオピニオン的なアドバイスをもらいたいということでした。

ぜひとも回避したい「不動産の共有」

遺産分割の案は、加藤さんが中心になって母親やきょうだいに提案していました。確認したところ、まずは母親が相続するところを決め、残りをきょうだいで4等分するというものでした。収益があるアパートと貸店舗については、母も含めた5人による共有を希望しています。

 

しかし、複数人で1つの不動産を共有することは、今後の意思統一が難しくなるリスクがあり、将来の争いの原因になりかねません。相続人はつい「共有して家賃を分ければいい」と考えがちですが、相続人の子どもの代、孫の代を考えると、不動産の共有は簡単にお勧めできないものなのです。

 

そのため、筆者と筆者の事務所の提携先の税理士は、まず最初に、母親が亡くなったときの最終的な財産の分け方を考えてもらうようにしました。今回は、その案を前提としたうえで、きょうだいの分け方を決めることを提案しました。

 

次に、配偶者の特例を利用するため、母親の取得割合が50%になるように配分していきます。将来取得する予定の子どもと共有することにより、次の相続の布石にもなるように調整を提案しました。

円満な関係からは見えてこない「将来のトラブルの種」

「最初は、きょうだいで賃貸物件を共有して家賃を分ければいい、なんだ、簡単じゃないか…と考えていました。実際、母もきょうだいもみんなそれに納得したんですね。ですが、次の代になるとトラブルになるリスクが高いという説明を聞いて、目からウロコが落ちました。でも、よくよく考えれば確かにその通りなんですよね…」

 

筆者と税理士のアドバイスにより「二次相続を見越した分割」に切り替え、母親ときょうだいに報告したところ、全員からすぐにOKの連絡がもらえたということでした。

 

「二次相続の方向性まで含めた話し合いができて、本当によかったです。安心しました」

 

加藤さんは納得し、安堵された様子でした。

 

相続人同士の関係も問題なく、一次相続をうまく乗り越えたつもりでも、気づかないうちにトラブルの種を持ち越してしまっているケースはよくあります。今回の加藤さんのケースはその典型です。

 

複数名で不動産を共有すると、相続が起こるたびに相続人が増え、相続手続きが煩瑣になる可能性が高くなりますし、そもそも子どもや孫の代になれば、関係が疎遠になって連絡がとれなくなり、相続手続き自体が進まないといった、困った事態も起こりえます。

 

また、いまはきょうだい関係が円満でも、時間の経過で状況が変われば、関係も変化することがあります。

 

問題の種を次の相続に持ち越さないよう、周到に準備を進めることが大切なのです。

 

 

※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

 

曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士

 

◆相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

 

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

 

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本記事は、株式会社夢相続のサイト掲載された事例を転載・再編集したものです。

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