妻に泣きつかれて妻の親族と同居、建物は区分所有に
今回の相談者は、50代会社員の杉本さんです。妻の実家の相続に悩んでいるということで、筆者の事務所を訪れました。
「事の発端は、8年前の義母の逝去でした…」
杉本さん夫婦は結婚後、妻の実家のそばに自宅マンションを購入して暮らしていました。車で15分程度の妻の実家には、妻の両親と、持病がある独身の義姉が暮らしていました。妻には兄もいますが、この義兄は杉本さん夫婦と同様、実家のそばにマンションを購入して暮らしていました。
「8年前に義母が亡くなったとき、義父から、体の弱い義姉と2人で生活するのは心配だということで、同居の打診があったのです」
杉本さんは自宅マンションを保有していることから、妻の親族との同居について、まったく考えたことがありませんでした。しかし、義父と妻に頼まれ、自宅マンションを貸し出し、妻の実家に引っ越すことにしました。
その際、老朽化した妻の実家を建て替えることにしました。新築したのは3階建ての木造住宅で、1階部分は義父と義姉、2階・3階部分は杉本さんという区分所有で登記をしました。費用も同等の割合で負担をしています。敷地は義父の名義です。
義兄は舌を出しつつ「平身低頭」
「同居の話が出た際、義兄からも〈自分も妻の両親と同居の可能性があるため、同居できない。どうか頼む〉と平身低頭、頼まれたのです、〈同居さえしてもらえるなら、あとは好きにしてもらって構わないから〉と。しかし、義兄にはこのときから思うところがあったようでして…」
当初、建物はすべて杉本さんの名義にするという条件で進めていたのですが、途中で義兄から「父親の権利も確保したいので、区分所有登記にしてもらいたい」と横やりが入りました。当初、義父が出す予定のお金は200万円程度とのことでしたが、名義を入れるのだから建築費の1/3を出すという話になり、やむなく同意したという経緯がありました。
「新居で生活が始まって5年後、義姉が持病の悪化で亡くなりました。そして今回義父が亡くなって、妻と義兄の2人で遺産分割をすることになったのです」
杉本さんにすれば、妻の実家に同居して義姉と義父の面倒を見てきたことから、土地と建物の区分所有部分は妻が相続し、現金を全額兄に譲ることになるだろうと思っていたそうです。
「面倒な手続きを押し付けておいて、俺を疑うのか!」
「ところがですよ。相続の打ち合わせの席で、開口一番義兄は、〈財産は半分ずつだから〉というんです。妻が怒って〈同居さえすれば、あとは好きにしていいっていったじゃない!〉と食って掛かると、〈はぁ?〉ととぼけて…」
杉本さんは妻に、父親の預貯金がいくらあるのか尋ねました。すると妻は、「よくわからない…」とうつむいたといいます。義父が倒れて入院するとき、義兄が「ここから入院費を払う」といって、通帳やキャッシュカード類を全部持ち出したそうなのです。
杉本さんと妻が銀行に出向いて確認したところ、かなりの頻度で出金が繰り返され、最終的に残っていた現金は300万円程度だったといいます。
「義父の入院費や手術代に必要だったと言い張りますが、ならば領収書を見せてほしいというと〈面倒な手続きを押し付けておいて、俺を疑うのか〉と開き直るのですよ。押し付けるもなにも、そっちが勝手にやったんだろうといいたいですが、義理の関係ですから、本気でやりあうわけには…」
義父は遺言書を残していないため、不動産には義兄の権利があります。しかし、住んでいるのは杉本さん家族ですから、不動産は杉本さんの妻が相続し、義兄には預貯金を払うのが妥当です。預貯金が少なければ、兄に代償金を払うことでバランスを取るしかありません。
筆者の事務所の提携先の税理士がこのように説明すると、杉本さんはうなだれました。
最悪は共有とし、建物解体時に売却して共有を解消
数日後、杉本さんから筆者の元に電話がありました。
「話し合いをしましたが、もうダメです。どうしたらいいのでしょう…?」
杉本さんは、自分の所有するマンションを売却して代償金に充ててもいいと覚悟をしたそうですが、義兄は実家の敷地にこだわり、歩み寄れなかったといいます。杉本さんの妻の実家は、駅から徒歩数分の利便性の高い場所にあることから、義兄がこだわるのも理解できますが、杉本さんも妻も、大学卒業後は実家に寄り付かず、両親の面倒も見ず、横から口を出すだけだった義兄に怒り心頭だということです。
歩み寄りの接点が見つからない現状から、税理士は「最悪土地を共有し、建物を解体するときに売却して共有を解消する」ことも提案しています。
親と同居する家を建てた場合、相続時にもめないよう事前に話し合いをしておき、共有名義にはしないことが望ましいといえます。
自宅をめぐる相続の揉め事を防ぐには、公正証書遺言書を作成し、土地、建物を相続させる人を指定し、相続できない相続人には不動産と同等程度の預貯金を分与すること。これが基本となるのです。
※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。
曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
【関連記事】
■税務調査官「出身はどちらですか?」の真意…税務調査で“やり手の調査官”が聞いてくる「3つの質問」【税理士が解説】
■月22万円もらえるはずが…65歳・元会社員夫婦「年金ルール」知らず、想定外の年金減額「何かの間違いでは?」
■「もはや無法地帯」2億円・港区の超高級タワマンで起きている異変…世帯年収2000万円の男性が〈豊洲タワマンからの転居〉を大後悔するワケ
■「NISAで1,300万円消えた…。」銀行員のアドバイスで、退職金運用を始めた“年金25万円の60代夫婦”…年金に上乗せでゆとりの老後のはずが、一転、破産危機【FPが解説】
■「銀行員の助言どおり、祖母から年100万円ずつ生前贈与を受けました」→税務調査官「これは贈与になりません」…否認されないための4つのポイント【税理士が解説】