謎の健康被害、始まりはハバナから
■ハバナ症候群
「ハバナ症候群」は、2017年8月、キューバの首都ハバナで勤務する米国とカナダの大使館職員が頭痛、耳鳴り、めまい、倦怠感、内臓機能障害、睡眠障害などの身体的な症状を訴えた現象のことだ。当時、キューバに駐在していた米国の外交官とその家族、CIA職員ら44人が、このハバナ症候群のために帰国した。当時、音波を利用した音響攻撃とか、ロシアのマイクロ波による攻撃ではないかという疑惑がもたれた。
その後、2018年には中国の広州にある米領事館でもハバナで起きたような被害が発生していると報じられ、2020年にはホワイトハウスでも起きている。 以降も200件の被害が報告された。しかも各地に赴任する大使館員や武官などだけでなく、大使館に拠点を置く数多くの中央情報局(CIA)関係者らも被害に遭っている。
米国のNBCテレビの報道(2020年12月15日付)で、米国科学アカデミーが、長期間「ハバナ症候群」の原因を究明してきた末に、12月5日に研究結果を発表し、「指向性エネルギー兵器」であるマイクロ波兵器を使用した可能性が高いと結論付けた。また、ロシアではこの種の“重要な研究”がおこなわれているとも指摘した。
米CNNによれば、2021年8月にカマラ・ハリス副大統領のベトナム訪問の際に、同行中の米政府関係者がハバナ症候群に似たような症状を訴えた。そのため副大統領のスケジュールが変更されている。
また、「CIAのビル・バーンズ長官が2021年9月はじめにインドを訪問した際、彼と同行したチームのメンバーがハバナ症候群と思われる不調を訴え、治療を受けた」という。
米国では18あるすべての情報機関がこの問題の調査をおこなっているが、まだ決定的な証拠は摑かめていないようだ。「情報機関は公式な見解を出すまでの合意には至っていない」とされている。
CIAはメディアの取材に対して、「バーンズ長官は、(ハバナ症候群による被害から)職員が必要な対応を得られるよう確認することを最優先事項としており、真相を究明してみせる」と答えている。
米議会の関係者によれば、GRUが関与している可能性に注目が集まっているという。先述のようにGRUは、ロシア連邦軍参謀本部情報総局のことで、世界中で諜報工作や暗殺などもおこなうスパイ機関である。GRUがマイクロ波エネルギー兵器を使って攻撃をしているという説が有力になってきた。
これに関して、BS日テレの『深層NEWS』(2021年10月28日放送)で明海大学の小谷哲男教授がハバナ症候群に関して驚くべき発言をしている。
小谷教授がバイデン政権の関係者から得た情報によると、
「米政府は、相当な確率でロシア、とくにGRUがこれをおこなっているという結論に至りつつある。CIA長官バーンズ氏が近いうちにこの事実を発表する可能性が高いと聞いています」
「状況証拠はかなりそろってきていますので、確たる物証を探している段階です。GRUは、米国の政府関係者を尾行していますが、ハバナ症候群が発生した現場で、GRUの関係車両が何度も目撃されていることが大きな証拠です」
「GPSの情報で、被害を受けた者の位置とGRU車両の位置を照合し分析していると聞いています」
「その兵器は大きめのスーツケースの大きさで、車載されているだろうということで、CIAも同じようなものを作り、それで検証しようとしています」
とのことだ。
マイクロ波の攻撃については、米軍も「指向性エネルギー兵器」のひとつである非殺傷兵器「ADS(Active Denial System)」を保有している。ところが、その機器はトラックのように大きく、充電などに何時間もかかる代物であり、被害が出ている各地でそれを設置すると簡単に発見され、隠密裏の攻撃は不可能である。GRUが使用している兵器はこれよりも小型化しているのであろう。
ロシアではこの手の武器は冷戦時代から開発されていたことが知られている。これは「モスクワ・シグナル」と呼ばれた攻撃で、ドイツの研究サイトによれば、ソ連は1953年から1979年にかけて、モスクワにある米大使館に対してマイクロ波を送ることで、大使館職員に健康被害をもたらしたということだ。
もしこれが本当にマイクロ波攻撃であるとすれば、今後は米国だけが対象になることはないだろう。こういった攻撃が現実に可能であれば、我々にもその被害が及ぶ可能性はある。
渡部 悦和
前・富士通システム統合研究所安全保障研究所長
元ハーバード大学アジアセンター・シニアフェロー
元陸上自衛隊東部方面総監
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