歳をとると変化は外から勝手にやってくる
■「眼・歯・マラ」と衰えて……
40代くらいまでは人生拡大路線だ。仕事であれ恋愛であれ、次々新しいことが起こり、その新しいことにもあえて挑戦したくなる。仕事で認められたい、金も稼ぎたい。夢にも野心にも勢いがある。自分が世界を変えることも可能と思えてくる。しかし、空に勢いよく投げたボールも、やがては力を失いゆっくりと落下していく。
歳をとると変化は向こうから、外から勝手にやってくる。それもほとんどが望まぬことばかりだ。気づけば「眼・歯・マラ」と順調に衰えてくる。冷静に考えれば、なっても不思議はないくせに、自分がガンになるとは思ってもいなかった。こいつも勝手にやってきた。
最近のいちばんの驚きは、朝、6時とかに勝手に目が覚めてしまうことだ。昔は目覚まし時計2個3個がどれほど鳴り続けても起きなかったのが、6時間も寝るともう目が覚めてしまう。「いやぁ〜、話には聞いていたけど、これがジジイになるということか」と、むしろ感心してしまった。
仕事でも、少しずつズレが生まれる。自分がかつて学び、経験したやり方とは違った方法が主流になってくる。これに技術的な変化が加わるから、日々確実に取り残される。こんな言葉すらある。
「老人にとって新しいことはたいてい悪い知らせ」
夢を語り、つま先立って背伸びをして自分を大きく見せ、その背伸びに追いつこうと頑張るのは若さの特権だ。漫画の主人公に求められるものを見ればわかる。世の中を拗ね、斜に構える者はサブキャラにはなれても絶対に主人公にはなれない。
真っ直ぐにキラキラと夢に向かって突き進む強さに読者は惹かれるのだ。だからこそ、ある日ふと気づく。「そうか、自分はもうドラマのなかでは主人公ではないのか」と。歳をとるとは、人生という舞台のなかで少しずつ中心から外れていくことなのかと。
しかし、筋トレを始めて気づいたことがある。
主人公だけじゃドラマは成り立たないという当たり前の話だ。主人公なら100㎏、200㎏、いや、漫画なら突然現れ、300㎏のバーベルを軽々と差し上げるだろう。でも、その横で、コツコツとわずか60㎏のバーベルと戦うオヤジがいるから、挫折した主人公が再び戦う勇気を取り戻す(ちなみにこういう主人公の挫折と復活というのは『キャプテン』から『スラムダンク』までスポーツ漫画の王道です)。
仕事の場では自分が若い新人漫画家さんにさんざん言ってきたことではなかったか。
「通行人ってキャラはいないんだからネ」
どういうことか。漫画家さんは主人公やその周りのキャラは思いを込めて描く。でも背景の一部である通行人は風景であるかのように流して描く。漫画の作法としては当然のことだが、実際の人生には通行人というキャラはいない。すべてのキャラクターがおのおのの人生を主人公として生きている。この意味でベンチプレスを60㎏で戦うショボいオヤジもまた主人公であっていい。
そもそも、思い返せば若い頃はそれほど素晴らしかったのか。勢いはあったがそのぶん、悩みも苦しみも多くなかったか。
城 アラキ
漫画原作家
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