ドル金融こそが対中抑止力の決め手
こうしたメディアは、政府の借金が増えると国債が暴落するとか、総じて金融債務が膨張すれば、金融パニックが起きると騒ぎます。それは資本主義、即ち市場経済のダイナミズムを否定する論理なのです。
借金は信用で成り立ちます。返済能力があると相手に思わせるからこそ、借金できるのです。それに対して、不動産などの担保がなくても、将来の収益モデルを提示して資金を集められるのが株式です。要するに、元本の返済義務がありません。配当をしなければなりませんが、できないこともあります。だから株は高利回りの期待はできますが、損失を被る可能性もある。リスク資産といわれる所以です。
国債は言ってみれば、国の発行する借用証書、つまり有価証券です。それゆえ元本の返済義務があります。利子も払わねばなりません。そういう意味では立派な借金です。しかし、国債は国が借り替えを繰り返せば、永遠に元本を返す必要がない、利子だけ返済すればいいのです。
中国は、国内の金融市場を開放するとしても、厳しい制限付きで、徐々にです。それでいて、香港市場を使って外国投資家から外貨を大量に取り込むことで成功してきました。このパターンを黙認しているのがアメリカをはじめとする西側先進国です。中国からのおこぼれで自国の金融資本が儲かるものですから、誰も文句を言いません。それが現実です。中国をここまで太らせたのはアメリカを中心とする金融主導の資本主義なのです。
「制裁だ、制裁だ」と口角泡を飛ばしても、肝心の金融制裁についてはスルーであり、「あいつが香港民主化を抑圧している当事者だから、奴の資産がドルでアメリカに来たら、差し押さえるぞ」程度の制裁しかしません。これは事実上カタチだけということです。中国はせせら笑っています。「やれるものならやってみろ」と。
ただバイデン政権が誕生したことで、別の意味で安心できません。要するに中国が読み違う恐れがあるのです。要するに「バイデンは何もできないだろう」と図に乗ってくる可能性がある。「バイデンなんか意のままになるさ。奴のせがれなんか我々とのビジネスで甘い汁を吸い続けてきたのだから、充分に弱みを握っているぞ」というようなことを思っているでしょう。
バイデン自身が副大統領時代、次男とともに中国利権にのめり込んでいたのは有名な話です。中国は「こいつはカネに弱い」とわかっています。だから、どこかナメきっているところがある印象です。
しかしながら、中国が「いろいろ言っているけれど、バイデン政権は何もできない」と、タカをくくって台湾や尖閣諸島で一線を越えた先制攻撃をやってしまったら、どうなるでしょう……当然のように日本はアメリカ軍を支援することになり、完全に巻き込まれます。
ともかく、そうなる前に、習政権を封じ込める金融制裁のオプションを、バイデン政権に用意させることが肝心だと思います。バイデン政権が本格的な対中金融制裁に踏み切れば国際金融市場は大揺れに揺れるでしょうが、それ以上に中国経済は一挙に崩壊の危機に見舞われ、習政権あるいは共産党独裁体制そのものが根底から揺らぎます。債務で成り立つグローバル金融のもと、ドル金融こそが対中抑止力の決め手になるのです。
田村 秀男
産経新聞特別記者、編集委員兼論説委員
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