(写真はイメージです/PIXTA)

家賃滞納が起きた際、話し合いで解決できず居住者を退去させたければ、賃貸借契約を解除し、建物の明渡訴訟を行います。しかし明渡訴訟を行う賃貸人が認知症、もしくは亡くなっている場合はトラブルに陥りやすいと、Authense法律事務所の森田雅也弁護士はいいます。訴訟手続きにおける注意点やポイントについて、賃貸人が死去している事例とともにみていきましょう。

賃貸人が「認知症」もしくは「死亡」の場合の明渡訴訟

家賃滞納が起きてしまった際、話し合いで解決できなければ、居住者を退去させるには、賃貸借契約を解除し、建物の明渡訴訟を行わなければなりません。しかし、明渡訴訟の手続きを行うには、原告として訴訟を行うことができる者がいなくてはなりません。

 

では、原告である建物の所有者や賃貸人が、認知症、もしくは亡くなっていた場合、どのように手続きを進めればよいのでしょうか。今回は、家賃滞納が起きた際に、賃貸人が高度の認知症と診断されていた場合や、契約書上の賃貸人が死亡してしまっていた場合の訴訟手続きの進め方について取り上げたいと思います。

 

賃借人が家賃を滞納している場合、話し合いで解決がつかなければ、居住者を退去させるには、賃貸借契約を解除し、建物の明渡訴訟を行わなければなりません。賃貸人である大家さんにとっては、滞納により日々の家賃収入が途絶えているわけですから、一刻も早く明渡しを実現し、次の入居者を探さなければなりません。

 

しかし、弁護士にご依頼いただいてもすぐに明渡訴訟を行うことができない場合があります。大家さんに気をつけていただきたいこととして、明渡訴訟手続きがすぐに行えないケースを紹介させていただきます。

賃貸人が認知症の場合

明渡訴訟を行うには、原告として訴訟をすることができる者がいなくてはなりません。当たり前のようですが、この点、見落とされている方がいらっしゃるのも事実です。

 

通常、建物の所有者もしくは賃貸人(所有者でなくてもよい)が原告となります。しかし、もしこれらの方々が高度の認知症と診断された高齢者であった場合、後見人選任手続きにより選任された成年後見人を法定代理人としなければ、有効な訴訟行為をすることができません。

 

賃貸借契約締結時にはご健康であった方も、月日の経過に伴い記憶力などが減退することは避けられません。加齢による記憶力などの減退の範囲を超えて高度の認知症と診断された場合には、ご家族などを後見人として選任させるなどして、訴訟をいつでも行える状態にしておく必要があるといえます。

 

しかし実際には、高度の認知症と診断された方が、後見人選任手続きをまったく行っていないケースが多く見受けられます。つまり、「原告として訴訟をすることができる者が誰もいない」という状態にもかかわらず、これをそのまま放置してしまい、いざ賃借人とのトラブルが生じたときに、早急に訴えを起こせないという事態が生じてしまうのです。

 

後見人を選任する手続きには、最低でも3ヵ月以上はかかります。そのあいだも家賃滞納は続きますので、早急に明渡訴訟を行うことで明渡しを実現できていれば、本来新しい入居者から得られたはずの家賃収入を、まったく得ることができないという機会損失が生じてしまいます。トラブルが生じた際に早急に訴訟手続き等が行えるよう、所有者・賃貸人の後見人選任手続きは速やかに行っておきましょう。

 

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