賃貸人である父死去…家賃滞納者へ明渡訴訟をする場合
次に、賃貸借契約上の賃貸人が既に亡くなられているケースを紹介します。この場合も、賃貸人は当然訴訟の原告にはなれません。
では、それによってどのような問題が発生し得るのでしょうか。例として、父親が賃貸人として賃貸業を行っていたが、その父親が亡くなってしまったため、長男がその賃貸物件を管理していた場合を考えてみます。
父親の死亡後、不運にもその賃貸物件に家賃を滞納し、かつ退去にも応じようとしない賃借人が現れてしまいました。そこでこの長男は、弁護士に明渡訴訟を依頼しました。
しかし、長男には他に2人の兄弟がおり、2人とも海外で居住していることが問題となりました。母親は既に他界しており、戸籍を確認しても他に相続人となるものがいなかったため、この兄弟3人が法定相続人となります。このような、賃貸人が既に亡くなられており、相続人が複数いるケースで問題となるのが、明渡訴訟の前提となる賃貸借契約の解除の方法です。
賃貸借契約の解除における問題点
判例上、賃貸借契約の解除は、建物の共有持分の過半数をもって行う必要があると判断されています。本件の場合、遺言もなく、相続人同士での取り決めもなかったことから、各兄弟は、それぞれ1/3ずつの共有持分権を有していると考えられます。
そのため、賃貸借契約を解除するには、最低でも2人の兄弟で行わなければなりません。当然、弁護士としても最低でも2人からの委任状がなくては、賃貸借契約を解除して明渡訴訟手続きを進めることができません。
ところが、長男以外の兄弟は海外に居住していたため、長男が連絡を取って委任状を取得するまで2ヵ月ほどかかってしまいました。本来なら弁護士は、賃貸人から明渡訴訟の依頼を受けたら、すぐに賃貸借契約解除を行ったうえで、裁判所に提訴を行うわけですが、本件の場合、約2ヵ月も提訴時期が遅れてしまい、結果、明渡しが実現する日もその分遅れてしまったわけです。
まとめ
大家さんにとっては、滞納により日々の家賃収入が途絶えているわけですから、一刻も早く明渡しを実現し、次の入居者を探さなければなりません。しかし、弁護士にご依頼いただいてもすぐに明渡訴訟を行うことができない場合があり、さらに相続が絡む問題となる可能性もあります。
今回ご紹介した賃貸人死亡のケースにおいて、未然にこのような事態を防止する方法としては、賃貸経営を長男が継続的に行う予定があるのであれば、兄弟全員で遺産分割について協議し、当該賃貸物件の所有者を長男のみにしておくことが有効だと考えられます。
後見や相続に関する問題はほったらかしにされがちですが、こと賃貸物件に関しては、あらゆる賃貸トラブルに備え、賃貸人がすぐに訴えを起こせる状態にしておくとよいでしょう。
森田 雅也
Authense法律事務所 弁護士
2025年2月8日(土)開催!1日限りのリアルイベント
「THE GOLD ONLINE フェス 2025 @東京国際フォーラム」
来場登録受付中>>
【関連記事】
■税務調査官「出身はどちらですか?」の真意…税務調査で“やり手の調査官”が聞いてくる「3つの質問」【税理士が解説】
■月22万円もらえるはずが…65歳・元会社員夫婦「年金ルール」知らず、想定外の年金減額「何かの間違いでは?」
■「もはや無法地帯」2億円・港区の超高級タワマンで起きている異変…世帯年収2000万円の男性が〈豊洲タワマンからの転居〉を大後悔するワケ
■「NISAで1,300万円消えた…。」銀行員のアドバイスで、退職金運用を始めた“年金25万円の60代夫婦”…年金に上乗せでゆとりの老後のはずが、一転、破産危機【FPが解説】
■「銀行員の助言どおり、祖母から年100万円ずつ生前贈与を受けました」→税務調査官「これは贈与になりません」…否認されないための4つのポイント【税理士が解説】