母親と兄が相次いで亡くなった
以前、奥さんの父親の相続のコーディネートをさせていただいた鈴木俊道さん(60代・仮名)が相談にこられました。
母親が亡くなり、相続人は兄と鈴木さんの2人。しかし、遺産分割協議書を作る前に、独身の兄も亡くなったとのとのこと。
母親の財産は約6,300万円。兄には配偶者も子もおらず、兄の相続人は弟である鈴木さんです。
「相続人は自分だけなので、ひとりで相続すれば、相続税は安くなりますよね?」
これは、実際の相続相談の現場で本当によく出てくる質問です。そして同時に、もっとも危険な発想でもあります。
一見すると、「じゃあ、最初から母親の財産を弟が全部相続したことにすればいいのでは?」
そう考えてしまいがちです。しかし、ここに大きな落とし穴があります。
相続は“亡くなった瞬間”に発生する
結論から言いますと、「弟ひとりで母親の財産を相続した」という申告はできません。
理由はシンプルです。相続は“亡くなった瞬間”に発生するからです。
母親が亡くなった瞬間、相続人は「兄と弟の2人」。その後、兄が亡くなったとしても、母親の相続関係があとから変わることはありません。
これを実務では「数次相続(すうじそうぞく)」と呼びます。
数次相続の流れ
このケースでは、相続は次のように進みます。
・相続人:兄、弟
・兄は母の財産の相続権を確実に取得
② 兄の相続(第2次相続)
・相続人:弟のみ
③ 兄が取得した「母の相続分」も含めて弟が相続
つまり、相続税は2回かかるということです。
登記は1回なのに、相続税は2回起きる理由
ここで多くの方が混乱します。
「結局、自分が全部相続するから、登記は1回でいいですよね?」
はい、登記は1回で済むことが多いです。しかし、税務上はまったく別です。
税務署はこう見ています。
・母親の死亡時点で、兄は相続人として“権利を取得”している
・その権利は、兄の財産として課税対象
・兄が亡くなれば、その財産を弟が相続
登記の有無ではなく、「取得する権利が発生したかどうか」が課税の基準です。
弟には「相続税2割加算」がかかる
兄の相続では、弟は
・配偶者でも
・子でも
・直系尊属でもない
ため、相続税は2割加算になります。
つまり、
・母親の相続:通常税率
・兄の相続:相続税+20%
という構造です。
「弟ひとりで相続したほうが得」と思っていたのに、 実際には税金が重くなるのです。
「じゃあ、遺産分割協議書で弟が全部相続すれば?」
ここで出てくるのが、この質問です。
「母親の遺産分割協議書で『弟が全部相続する』と書けば大丈夫では?」
結論は、「原則NG」です。
なぜなら、
・協議書は“相続人全員”で合意して作るもの
・兄はすでに亡くなっており、意思表示ができない
兄が相続人であった事実は消えません。
