「そのとき」のために備えた相続設計が、いま生きた実例
「まさか、15年前に結んだ民事信託が、こんな形で家族を救ってくれるとは思っていませんでした」
そう話してくださったのは、60代の高橋さん(仮名・会社員)です。
相談のきっかけは「将来への漠然とした不安」
高橋さんが勤務する会社は実家の近くにはないため、就職後は実家を離れて他県で生活しています。妹は同じ県内に住んでいますが、やはり嫁いで実家を離れています。結果、高橋さんの両親は長年2人暮らしの状態でした。
高橋さんは上場企業の会社員ですので、普段は仕事も忙しくなかなか実家に帰ることもできなかったと言います。そうしたとき、まとまった休みがあり、久しぶりに実家に帰ったとき、父親の様子を見て、愕然(がくぜん)としたと言います。
80代の父親は動きも遅くなり、老後が不安になったこともありますが、高橋さんが一番不安に感じたのは、父親の預金が多くないということでした。このままでは老後資金が不足すると思ったことから、15年前、高橋さんは両親の将来を案じて、相談に来られました。
当時のご家族の状況は次のとおりです。
・父親:80代(自宅で生活するも要介護状態、認知症予備軍)
・母親:80代(自宅で生活、元気ではあるが加齢による不安あり)
・長男:高橋さん(50代・会社員・県外で生活)
・長女:50代(結婚して別世帯・同県内で生活)
父親は自宅で転倒し、歩行が困難になり要介護に。母親は元気で父親の介護をサポートしていますが、彼手による行動力は否めない状況です。
「このまま年を重ねたら、父親が管理しているお金や不動産のことは、専業主婦の母親には荷が重いのでは……。しかも、お金が足りなくなる」それが、高橋さんの率直な不安でした。
財産はある。でも、お金が足りない現実
当時、父親が持っていた財産は次のとおりです。
・自宅土地:1億2,530万円
・建物:153万円
・現預金:300万円
・生命保険:1,200万円
・合計:1億4,183万円
相続税の簡易試算では、約1,386万円の相続税が見込まれました。
問題はここからです。
財産の大半は「自宅不動産」。
一方で、自由に使える現金は300万円ほどしかありません。
・生命保険は相続が起きないと入らない
・自宅は売らなければ現金にならない
・認知症が進めば、売却や契約行為ができなくなる
つまり、
「財産はあるのに、使えない」状態に陥るリスクがあったのです。
「民事信託」をすすめた理由
そこでご提案したのが、父親を委託者、長男・高橋さんを受託者とする民事信託契約でした。
目的は明確です。
・父親が元気なうちに、将来の財産管理の道筋を決める
・認知症になっても、不動産を処分・活用できるようにする
・成年後見制度に頼らず、家族の判断で動けるようにする
この信託契約により、
・不動産の管理・売却・活用は長男が行える
・収益やお金は父親(その後は母親)のために使う
・父親が亡くなった後は、母親が信託を承継する
という設計が整いました。
契約の日には、家族4人全員が集まり、父親の意思確認を丁寧に行いながら手続きを進めています。
8年前、父親が亡くなり、信託は「次の段階」へ
その後、父親は亡くなり、信託契約どおり、母親がすべての財産を相続しました。相続税の申告は必要でしたが、配偶者である母親が相続することによって財産の1億6,000万円までは無税という特例を適用しましたので、納税は不要となりました。
この時点では、
・母親はまだ自宅に住んでいた
・大きな資金需要はなかった
ため、信託の力が表に出る場面はありませんでした。父親の信託契約には自分が亡くなったときには財産は母親に相続させること、信託契約はそのまま継続することも記載されていますので、そのとおりにすることで相続税の納税は不要となりました。
しかし、本当に重要なのは、ここからでした。
