(画像はイメージです/PIXTA)

賃貸物件のオーナーには、入居者の募集や建物の修繕といった管理業務が発生します。その中でも特にトラブルが生じやすいのが、賃借人との明渡し・立退き交渉です。たとえオーナー側に老朽化による建て替えなどの理由があったとしても、立ち退きを求められる賃借人にとっては、意図せず転居せねばならなくなるため、不満を感じて拒否するケースも少なくありません。そこで実際にココナラ法律相談のオンライン無料法律相談サービス「法律Q&A」によせられた質問をもとに、賃借人の明渡し請求の拒否について鈴木崇裕弁護士に解説していただきました。

契約書の変更を拒否したら、明渡しの通知が届き…

相談者のssstさん(仮名)は、現在生活している一戸建て賃貸物件のオーナーから明渡し通知をもらい、困っています。ssstさんはこの物件に8年住んでおり、今までに家賃滞納や契約違反は一度もしていません。

 

ことの発端は先日、ssstさんのもとに2年に1度の更新の時期を迎え、仲介業者から契約書が届いたことから始まりました。

 

今回の契約書には「オーナーはこの契約から修繕費は負担しない、借主負担とする」という旨が追記されていました。ssstさんはこの内容に納得できず、仲介業者に「修繕費がいくらかわからないのに負担はできないので、今回の契約書には判は押せない。今まで通り家賃を払って住まわせてもらいたい」という旨を伝えました。

 

すると後日、オーナーから「今の物件は解体するほかないと決断した」として、半年後までに明け渡すように、という内容の通知が簡易書留で送られてきてしまったのです。仲介業者はオーナーの肩をもつばかりで、当てにならないそうです。

 

そこでssstさんは、ココナラ法律相談「法律Q&A」に次の2点について相談しました。

 

  1. 明渡しの通知を放置し、要求期間が過ぎたらssstさんは強制的に退去させられてしまうのか
  2. ssstさんは、オーナー側に対しどのような対応を取るべきか

更新の合意ができなくてもこれまで通りの契約が続く

法定更新という制度

 

建物の賃貸借契約には借地借家法という法律が適用されます。この法律には、賃借人を保護するためのさまざまな制度が盛り込まれていますが、そのうち最も重要なものの一つが「法定更新」という制度です。

 

賃貸借契約は賃貸人と賃借人の双方が合意しなければ成立しませんし、契約内容は原則として当事者間で自由に定めることができます。そのため契約期間が満了したら、契約の更新ができない限り、賃貸借契約は終了してしまうようにも思われます。しかし、それでは賃借人の居住や営業といった生活基盤が安定せず、立場の強い賃貸人に有利な契約が横行してしまう恐れもあります。

 

そこで、借地借家法は「法定更新」という制度を設けることにより、賃貸人から契約の更新を拒絶するためには「正当事由」が必要で、この「正当事由」がない限り、契約は従前と同じ条件で更新され存続することとしました。賃貸人と賃借人との間で新たな更新の合意ができれば、もちろんその通りの内容で契約は更新されますが、更新の合意ができない場合でも「法定更新」されることにより、賃借人は建物の使用を継続することができます。

 

更新を拒絶するための正当事由はなかなか認められない

 

今回のご相談内容を拝見すると、更新のタイミングで賃貸人側に有利な特約の追加を求められたが応じたくないので、更新の合意ができない状態にあるということですね。上記の通り、建物の賃貸借契約には「法定更新」の制度が適用されますので、更新の合意ができなくても、「正当事由」がない限り、契約はこれまでと同じ条件で存続します。つまり、賃貸人からの明渡しの要求に応じる必要はありません。

 

もっとも、「正当事由」がある場合には、賃貸人は契約の更新を拒絶することができます。この場合、賃貸借契約は終了しますので、相談者様は退去しなければならないことになります。

 

「正当事由」は、借地借家法の条文上、次のように規定されています。

 

「建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合」(借地借家法第28条)

 

ご相談内容からすると、賃貸人は建物の老朽化を「正当事由」として主張したいようです。確かに、建物の老朽化は「正当事由」になり得ますが、判例上、建物の老朽化のみを理由として「正当事由」が認められるためには、直ちに建物の使用を中止しなければ危険であるといえるほどに耐震性が著しく低いことが必要とされると考えられているようです。

 

建物の法定耐用年数(減価償却資産の耐用年数)を超えていたとしても、修繕を行えば普通に使用できるような状態であるならば、老朽化のみを理由として「正当事由」が認められる可能性は低いといえます。

次ページこれまで通り居住を続けるか、補償を得て転居するか

人気記事ランキング

  • デイリー
  • 週間
  • 月間

メルマガ会員登録者の
ご案内

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

メルマガ登録
会員向けセミナーの一覧