中国の弱点は通貨制度が事実上のドル本位制であることです。もし香港ドルとアメリカドルの交換を禁止する段階にアメリカが踏み出せば、もう中国は震え上がってしまいます。日本経済の分岐点に幾度も立ち会った経済記者が著書『「経済成長」とは何か?日本人の給料が25年上がらない理由』(ワニブックスPLUS新書)で解説します。

香港は外貨を手に入れる一大基地

もし香港ドルとアメリカドルの交換を禁止する段階にアメリカが踏み出せば、もう中国は震え上がってしまうわけです。これはアメリカドルが自由に手に入らないということを意味するからです。

 

人民元はアメリカドルの裏付けがあって初めて信用を得ています。例えば2008年から2018年までの10年間に中国が対米貿易黒字で稼いだアメリカドルの金額の合計、つまり累計額と中国人民銀行(中国の中央銀行)が人民元を新たに発行した金額をドル換算すると、見事に一致します(2兆8500億ドル)。

 

香港ドルとアメリカドルの交換を禁止されると、人民元の裏付けとなっているドルが簡単に手に入れられなくなります。中国は青くなります。

 

中国にアメリカドルを流入させる窓口になっている銀行は、7割方香港にあります。中国の外貨取引は70%くらい香港でやっているのです。上海でも外貨取引は行われていますが、規模としては香港の足元にも及びません。

 

BISが4年に1回、外国為替取引のマーケットのデータを公表しますが、2019年四月時点では、香港が中国本土の二倍以上でした。

 

■毛沢東の英断

 

香港をイギリスから無理に奪還しなかったのは毛沢東の英断だったと言えます。香港が好きなだけ外貨の手に入る一大基地になっているのは、ある意味そのお陰なのですから。

 

1949年の夏頃、要するに建国の前、人民解放軍が深圳まで押し寄せてきました。深圳と香港の間を流れている深圳川は、場所によっては東京の神田川(10メートル弱)くらいの狭い川で、渡るのは簡単です。

 

そのとき、イギリスが周恩来と連絡を取り合っています。周恩来は毛沢東と謀って、渡河しないことにしました。その条件として、イギリスが中華人民共和国の政府承認を(西側で初めて)すること。

 

それと同時に香港における中国共産党の特権(外貨の調達)を維持することを求めました。それで中英は手打ちしたのですが、中国共産党は香港で外貨を調達でき、それゆえのちの改革開放路線を成功に導きました。この自由な外貨調達がいちばんのエンジンになったのです。

 

対岸の深圳は決して盤石の土地ではなく、広大な湿地帯でした。しかし人民解放軍を総動員して土地を埋め立てて整備し、いまやニューヨークも真っ青になるくらい高層ビルが林立しています。上海の浦東新区の開発は深圳よりもあとで、深圳は1980年に鄧小平の指示により経済特区に指定されると急速に発展しました。それは香港に隣接していたからです。香港と深圳の間の行き来は比較的自由なのです。

 

田村 秀男
産経新聞特別記者、編集委員兼論説委員

 

 

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    本連載は田村秀男氏の著書『「経済成長」とは何か?日本人の給料が25年上がらない理由』(ワニブックスPLUS新書)の一部を抜粋し、再編集したものです。

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