(※写真はイメージです/PIXTA)

介護業界は収益至上主義が蔓延しています。多くの介護企業は、儲かる高齢者と儲からない高齢者とを区別し、儲からない高齢者を入居調整という都合の良い言葉を使って、事実上切り捨てています。老人ホームの裏の裏まで知り尽くす第一人者の小嶋勝利氏が著書『間違いだらけの老人ホーム選び』(プレジデント社刊)で解説します。

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儲からない高齢者は入居調整の切り捨て

最近、サステナブルという思考がもてはやされています。老人ホームも、持続可能で発展していくことが重要だと思います。

 

しかし私は、今の状態ではとても持続が可能だとは思えません。ある人は、介護職員を全員公務員にするべきだと言っていますが、私もその意見には賛成です。少し乱暴な話だとは思いますが、今のまま無策でいくのであれば、公務員化のほうが良いと思います。

 

理由は、介護業界に収益至上主義が蔓延しているからです。多くの介護企業は、儲かる高齢者と儲からない高齢者とを区別し、儲からない高齢者を入居調整、退去調整という都合の良い言葉を使って、事実上切り捨てています。それでも、儲からない高齢者に対し、行政がセーフティーネットを用意していればよいのですが、そういうわけでもありません。

 

見ている限りでは、儲からない高齢者を行政と民間企業とで押し付け合いをしているありさまです。反論や地域性などもあろうかと思いますが、少なくとも私がいる首都圏では、そう見えます。

 

しかし、これも、何度も言っていることですが、今の制度では、仕方がない話です。一方的に企業を責めることはできません。なぜなら、そうしなければ、企業は生き残ることができないからです。民間企業が介護業界へ参入した時点で、この現象は容易に予測できたはずです。

 

今、企業も行政もそして入居者や利用者など、介護や老人ホームにかかわるすべての関係者が、考えなければならないことは、渋沢栄一の言うところの「論語とそろばん」であり、二宮尊徳の言うところの「経済なき道徳は寝言であり、道徳なき経済は犯罪である」ということです。

 

最近では、ドイツの哲学者であるマルクス・ガブリエル教授なども、なぜ企業には、顧問税理士がいるのに、顧問倫理学者や哲学者がいないのか? と主張しています。つまり、倫理資本主義の提唱です。

 

私は、難しいことはよくわかりませんが、私流に言わせていただければ、介護の世界は「おかげさま」と「おたがいさま」です。介護支援をする側もされる側も、常に「明日はわが身」であり、一方で、「介護を必要としている人がいるから仕事がある」ということを考えるべきなのです。その昔、記憶が定かではないため、もしかすると私の勘違いかもしれませんが、国連難民高等弁務官であった緒方貞子さんが、次のような話をしていたと記憶しています。

 

「難民救済は、慈愛ではなく、連帯である」と。

 

私は、これを次のように解釈しています。難民は気の毒な人たち。だから、豊かな我々が救済しなければならない、と考えるのではなく、自分たちが何不自由なく生きていけるのは、難民として生まれ、そして貧困や不自由の中で餓死している人たちがいるからこそのおかげではないか、と。彼らの犠牲の上に、我々は生かされているのだから、慈愛ではなく、連帯なんだ、と。

 

高齢者介護も、同じだと思います。どのような制度や仕組みを作ろうとも、生身の人間の生活を支えることはできません。不完全なものになってしまいます。だからこそ、企業も利用者も「おたがいさま」と「おかげさま」の精神で、お互いのことを思いやることが重要になっていくのです。

 

介護保険料を支払っているのだから、サービスを受けるのは当たり前だと考える利用者、つまり権利を行使するという利用者が増えていると言われていますが、これでは、いくら介護職員の待遇を上げても追いつきません。制度や仕組みの限界です。

 

利用者側は、自助、互助をしっかりやって、けっして事業者に丸投げをしないこと。そして、事業者は、共助の担い手として、プライドと情熱を持ってしっかりと利用者とその家族を支えていくこと。そして、どうにもならない場合は、国家の公助が機能しなければならない、ということ。

 

これが、介護保険事業がサステナブルに発展することだと、私は考えています。

 

小嶋 勝利
株式会社ASFON TRUST NETWORK 常務取締役

 

 

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※本連載は小嶋勝利氏の著書『間違いだらけの老人ホーム選び』(プレジデント社刊)から一部を抜粋し、再編集したものです。

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