(※写真はイメージです/PIXTA)

ある男性は、ひと回り以上年齢の離れた後妻を気遣い、日ごろから「僕が亡くなったら全財産を君に」と口にしていました。しかし、男性は遺言書を残さず逝去。後妻はなんとか自宅と夫の退職金、年金を相続しましたが、先妻の子から「いずれは実家を返してほしい」といわれてしまい…。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに解説します。

ひと回り以上年上の夫からの「口約束」

今回の相談者は、50代の専業主婦の山本さんです。亡くなった夫の相続の件で相談したいと、筆者の事務所を訪れました。

 

山本さんと亡くなった夫は、結婚して10年未満です。夫は再婚で、先妻との間に2人の子どもがいます。結婚当初すでに夫は50代で、子どもたちも成人しており、ふたりの結婚に反対する人はいませんでした。

 

「夫は私よりひと回り以上年上でした。夫亡きあとの生活を不安がる私に、夫は〈息子たちは独立して心配ないのだから、全財産は君に残すよ〉といつもいっていました。でも夫は、病気が判明してからわずか数ヵ月で亡くなってしまったのです。本当にあっという間で、当時は遺言書の作成まで頭が回りませんでした」

 

山本さんの夫の財産は、夫婦が暮らしていた自宅、退職金、年金、預貯金、保険、車で、相続税がかからない範囲に収まっています。

「自宅の名義は譲るが、死んだら返してもらいたい」

葬儀は長男が取り仕切り、法要まで無事に終わりました。その後、山本さんと夫の子どもたちの3人は、遺産分割協議を行いました。

 

「私はいまの家に住み続けたいので、自宅、あとは退職金と年金、日常生活に必要な車を相続しました。2人の子は、それぞれ保険と預金を相続すると、だいたい法定割合に近くなるようなので、そこで話がついたのです。でも、長男から条件を出されまして…」

 

長男が出した条件というのが、「今回の相続で、山本さんに自宅の名義は譲るが、山本さんが亡くなったら、家を返してもらいたい」というものでした。

 

山本さんには実子がなく、両親も他界していることから、相続人は山本さんの弟と妹の2人になります。

 

「夫の子どもたちは、自分たちが育った家がなくなるのはいやだというんです。でも、2人とも結婚して自分の家を持っているんですよ?〈自宅を相続するように〉といっていたのは夫です。そもそも生活の保障のために自宅を相続するのに、自分の自由にできないのは困ります…」

 

山本さんは納得できない様子でした。

子どもたちにも取り分…遺言書がなくてよかった

相談を受けた筆者は、山本さんと夫の子ども2人、そして弁護士を交えて数回の話し合いを行いました。その結果、山本さんは夫から相続する自宅について、長男に遺贈することを決意しました。それにより、今回の夫の相続についての遺産分割協議書とともに、山本さん亡き後、長男に自宅を遺贈する旨を記した公正証書遺言も作成しました。

 

山本さんは迷いがあったようで、話し合いが何度か中断するなど時間がかかりましたが、最終的には予定どおりの遺産分割協議と遺言作成が完了しました。

 

夫の生前なら「妻に全財産を相続させる」という遺言書を作成すれば、山本さんの権利は守れたのですが、そうなれば、夫の子は父親の財産を相続する機会を失うため、恐らく遺留分を請求したと想像されます。余計な争いをすることなく着地させるには、今回のような形で、まずは遺産分割協議をして遺産分与を決め、その後、遺言書を作成するのが妥当だと考えられます。

 

山本さんは退職金と年金が入り、自宅もそのまま住み続けられることになりました。もし夫が口にした通りの内容で遺言書が作成されていれば、いさかいに発展可能性が高いと思われ、その点を考えれば、いいかたちに収まったといえるでしょう。遺言書が存在しなかったことにより、子どもたちの権利が残ったことを考えれば、山本さんには非情なようですが、バランスのとれた結末になったといえます。

 

 

※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

 

曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士

 

相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

 

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

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本記事は、株式会社夢相続のサイト掲載された事例を転載・再編集したものです。

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