母の死で判明した、父の離婚歴と異母きょうだいの存在
今回の相談者は、50代会社員の佐藤さんです。数ヵ月前に亡くなった母親の相続手続きをするにあたり、自分では対処しかねる問題が起きたので相談したいと、筆者の事務所を訪れました。
佐藤さんは10年以上前に父親を亡くしましたが、当時は健在だった母親がすべてを引き継いで管理することになり、相続手続きをしませんでした。財産自体も、実家の土地と建物と預貯金程度で、申告が不要な額でした。預貯金は母親が生活費の足しにしているようでした。
佐藤さんは2人姉妹の長女で、妹は隣県に嫁ぎ、佐藤さんも実家近くに夫婦で家を建てており、母親と同居はしていません。
今回母親が亡くなったことで、ようやく名義変更等の手続きに着手するべく、必要な書類を集めはじめたといいます。
「私の両親はずっと共働きでして、実家の不動産は父と母で2分の1ずつの共有名義です。自宅と預貯金以外の財産はほとんどありません。今回の相続人は私と妹のふたりですから、実家を私の名義にして、〈家はいらない〉といっていた妹には残りの現金すべてを渡せばいいと、簡単に考えていたのです…」
ところが、戸籍謄本を取り寄せて驚きました。書類の内容から、父親は再婚で、先妻との間に子どもが2人いることがわかったのです。つまり、佐藤さんと妹の異母きょうだいです。
「これまで両親から、そんな話は一切聞いたことがありませんでした。とにかく動揺してしまいまして…。異母きょうだいにどうやって接触して交渉したらいいのか、ぜひ相談に乗っていただきたいのです」
秘密主義な両親のせいで、実家を手放すことに…
佐藤さんの手元にあるのは戸籍謄本の記載だけです。そのため、筆者は提携先の司法書士に調査を依頼し、異母きょうだいの現在の住所地の確認から開始しました。それが判明したところで、父親が亡くなったことや、相続手続きが必要になっていることを連絡しました。
佐藤さんの異母きょうだいは、父親が再婚して妹が2人いることは聞いていたものの、その間、一度も会ったことがなく、きょうだいとしての感情はないとのことでした。
その後、異母きょうだいの代理人を名乗る弁護士から、法定割合の財産を要求する旨の通知がありました。数十年間、亡き父親は先妻の子どもとほとんど連絡を取っていなかったようですが、不動産があることを知り、「このときばかりは…」と思われたように感じました。
先方が代理人として弁護士を立てたことで、仕方なく佐藤さんも弁護士を立て、弁護士同士で遺産分割協議を進めました。しかし、不動産を売却しなければ遺産分割ができないため、やむなく佐藤さん姉妹は実家を売却し、異母きょうだいの法定割合分である、1人あたり8分の1に該当する金額を、2人に払うことになったのでした。
もし生前、父親が先妻との間に子どもがいるということを、相続人である佐藤さんの母親や、佐藤さん、妹としっかり情報共有していれば、生前贈与や遺言書により、感情的なもめ事を回避しつつ、実家を残すことも可能だったでしょう。筆者が相談を受けていたなら、まずは、配偶者の贈与の特例を利用し、父親の名義を母親に移すことをお勧めしたと思います。それらの対策をしたうえで、実家の不動産は残したまま現金で財産分与することが妥当だったのではないでしょうか。
しかし、この状況プラス実家が空き家状態となれば、売却を渋ることはできないでしょう。父親が先妻との子たちをないがしろにしたツケが、後妻の子に回ってきたということでしょうか。
※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。
曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
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