(※写真はイメージです/PIXTA)

母が遺した遺言書を見たある男性は、あまりにも不公平な遺産分割の内容に憮然。何とか自分を納得させようとしたものの、その後、遺言書作成後に建て替えられた不動産の負債まで背負う羽目になると判明し…。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに解説します。

母が亡くなり、公正証書遺言書の存在が明らかに

今回の相談者は、50代会社員の伊藤さんです。亡き母親が遺した公正証書遺言の内容で困り果てていると、筆者のもとへ相談に訪れました。

 

伊藤さんの母親は、父親を亡くして以降ひとり暮らしでしたが、近くに暮らす妹が、何かと面倒を見てくれていました。伊藤さんの母親には、晩年まで暮らしていた自宅と、自宅近くのアパート、あとは亡き父親の生命保険等を含むまとまった金額の現預金など、かなりの資産があります。

 

伊藤さんは、母親の資産の内容をだいたい把握していましたが、相続が発生したら、妹と希望をすり合わせて適当に分ければいいと思い、あまり深く考えなかったといいます。

 

ところが、伊藤さんの母親は公正証書遺言を遺していました。

 

「母親が遺言書を残しているなど、まったく想像していませんでした」

 

遺言書の内容によると、伊藤さんにはアパートのみ、妹には自宅不動産と預貯金のすべてという内容でした。伊藤さんが相続するアパートより、妹が相続する自宅のほうが広くて評価も高く、それプラス預貯金となると、伊藤さんが全財産の35%程度なのに対し、妹が65%と、不公平な内容です。

 

「私はすでに自宅がありますから、妹に実家の不動産と現金がいくのはかまわないのです。アパートなら家賃収入も得られますしね。それだけなら、まあ仕方がないと思ったのですが…」

老朽化アパートの建て替えで、遺言書の内容に問題が…

じつは、母親が公正証書遺言を作成したあと、老朽化したアパートを銀行から融資を受けて建て替えているのです。問題となったのは、その負債をどちらが相続するかでした。

 

遺言書には「負債の一切も妹が相続する」とあり、銀行の連帯保証人も妹になっています。しかし困ったことに、遺言書に記載があるのは古い建物の家屋番号で、建て替えた家屋番号と異なっているのです。そのため、司法書士の判断で遺言による登記ができず、アパートを伊藤さんの名義に書き換えるには、妹の協力が必要です。

 

しかし妹は、アパートの名義変更に協力するどころか、遺言で指定されていない財産は2人の共有財産になるので、アパートの建物も共有したいと言いだしました。建物が共有になれば、家賃も半分ほしいと主張されると予想され、先々揉め事に発展する可能性は高いといえます。

「こんなことなら、築古アパートを残されたほうが…」

打ち合わせに同席した税理士が「将来のトラブルを回避するためにも、アパートの名義は伊藤さん単独にした方がいいですよ」と説明すると、伊藤さんは「なぜ自分が負債を相続なければならないのか」と憮然としていましたが、結局、しぶしぶ納得しました。

 

「負債のために相続する正味財産は少なくなりますが、その分は遺留分で請求することもできますから…」

 

そんな税理士の慰めの言葉にも「こんなことになるぐらいなら、いっそ築古アパートのまま残してくれたほうがマシでした…」と、伊藤さんは嘆いていました。

 

全体を見渡せば、負債があることで節税にはなったものの、相続人それぞれの状況を見るなら、大きな課題が残ってしまったといえるでしょう。

 

今回のいちばんの問題は、アパートを建て直したことで建物の家屋番号が変わってしまい、遺言書による登記できなかったことです。また、アパートの負債については、家屋番号が変更されたことで、相続人の明記がない状態となってしましました。遺言に記載がない財産は、遺産分割協議が必要になりますので、今回のようなあいまいさを残すと、揉め事になる可能性が高いのです。

 

遺言書は、状況に変化があれば、その都度作り直しておくことが必要です。また、相続人同士で解釈が違う場合は、家庭裁判所の調停に持ち込むことになりますし、遺留分を侵害されている場合は、侵害額請求をすることになります。もちろん、不動産の共有は、将来のことを考えるならできるかぎり避けた方がよいでしょう。

 

 

※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

 

曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士

 

相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

 

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

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本記事は、株式会社夢相続のサイト掲載された事例を転載・再編集したものです。

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