(※写真はイメージです/PIXTA)

「お母さんは外に出ちゃダメだよ」と離れて暮らす子どもにそう言われた80代の女性は、食料や生活用品は生協の宅配で済ませ、買い物も行かず、散歩もせず、我慢していたそうです。そのうち、食欲もなくなり、記憶力が減退していきました。老人医療に詳しい精神科医の和田秀樹氏が著書『80歳の超え方 老いは怖くないが、面倒くさい』(廣済堂出版)で解説します。

認知症とうつ病の初期の状態は似ている

■高齢期の「不安」が、むしろ老化に悪影響をおよぼす

 

このコロナ感染が広まる中で、高齢者の方たちの要介護度が上がるのではないかと私は心配しています。

 

高齢になるとどうしても「不安」が強くなる傾向があります。

 

若いときは少々冒険していたのに、年をとると弱気になってくるのです。

 

「いつ死んでもいい」と言いながらも、あちこちの病院に通ってしまいます。

 

コロナ感染の始まった頃は、高齢者に重症になる方が多く、たしかに気をつけないといけない時期もありました。そのため、そのときから、感染が怖いのであまり外に出なくなった人が多くいました。

 

「お母さんは外に出ちゃダメだよ」

 

子どもにそう言われた80代の女性は、食料や生活用品は生協の宅配で済ませ、買い物も行かず、散歩もせず、我慢していたそうです。

 

そのうち、食欲もなくなり、記憶力が減退して、寝てばかりいるということで病院に行きました。

 

診断は抑うつ状態でした。

 

外に出たら感染すると思って閉じこもり、話すのは宅配のお兄さんぐらい。体操教室にも通っていましたが、感染予防のために教室が閉じています。行くところもありません。隣近所との立ち話も控えていたそうです。

 

この方の感染不安のおおもとは、自分が感染することより、人に迷惑をかけるということでした。まず離れて暮らす子どもたちに迷惑をかける。隣近所には迷惑というより白い目で見られやしないか、体操教室の友達に除け者にされないか、不安の妄想が広がっていったそうです。

 

こういう方は多いのではないでしょうか。

 

私はコロナ感染禍の中で高齢者がどう生活し、生き延びていくかの研究も必要だと思っています。

 

高齢者の不安は、コロナ感染だけでなく、いろいろあります。

 

「認知症になったらどうしよう」「お金がなくなったらどうしよう」「子どもに何かあったら、自分はどうしたらいいのだ」。心配すれば限りがありません。世の中は危険に満ちているように感じます。それに対して自分は無力です。

 

こういう状態でも、人と会い、お喋りをして、子どもや友達に「何言っているの、大丈夫よ」「心配し過ぎよ。なんとかなるんだから」と言われれば、心が晴れたり、ストレスが解消できたりします。

 

喋ることがなくひとり暮らしで閉じこもっていると、不安が離れず抑うつ状態になりやすいのです。

 

認知症とうつ病の初期の状態は似ているところがあり、専門医が検査しながら判別しますが、私は認知症よりうつ病のほうが怖いと思っています。

 

認知症の人は嫌なことを忘れて楽しそうな顔をしていることが多いものですが、うつ病の人は、自分はダメだとか人に迷惑をかけていると考えて本当につらそうにされているからです。

 

また、うつ病は心の風邪と言われますが、早期に治療しないで放っておくと治りづらくなります。高齢者の場合は、うつから脳の萎縮が強まり認知症になる場合があります。

 

なぜなら、不安が多いとそのことばかり考え、好奇心をなくしていくからです。脳細胞も使われないと機能低下をしていくでしょう。脳細胞が好きなのは、好奇心とわくわくすることなのです。

 

「不安」は老化を早めるだけで、なんの役にもたちません。

 

和田 秀樹
和田秀樹こころと体のクリニック 院長

 

 

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本連載は和田秀樹氏の著書『80歳の超え方 老いは怖くないが、面倒くさい』(廣済堂出版)より一部を抜粋し、再編集したものです。

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