田原総一朗氏は、ロッキード事件について、私は角栄に有罪判決が出た後も、事件の捜査や裁判に関わった検事や弁護士たちに無理を承知で徹底的に取材をしたといいます。事件の捜査を担当した東京地検特捜部検事の一人が、語った「被疑者の罠」とは。ジャーナリストの田原総一朗氏が著書『田中角栄がいま、首相だったら』(プレジデント社)で解説します。

特捜部検事が語った「被疑者の罠」

■「アメリカの虎の尾を踏んだ田中角栄」

 

田中角栄にとって致命傷となったのは、金権選挙を支えるための資金づくりの実態が、1974年の『文藝春秋』11月号で暴かれたことである。立花隆の「田中角栄研究―その金脈と人脈」と児玉隆也の「淋しき越山会の女王」である。

 

角栄は11月26日に首相退陣を表明し、自民党副総裁だった椎名悦三郎が、後継に三木武夫を推挙した。福田赳夫にしなかったのは、角栄の気持ちを慮ってのことであろう。

 

ところが、翌々年の1976年2月、ワシントンでロッキード事件が火を噴いた。新型旅客機の売り込みに絡んで億単位の現金が日本の政府関係者に流されたとされる事件である。そして、角栄は5億円を受け取ったとして、東京地検に逮捕された。

 

首相の職権を利用した収賄事件として、メディアは一斉に角栄を叩いたが、この事件に強い疑問を抱いていた私は『中央公論』に「アメリカの虎の尾を踏んだ田中角栄」という論文を書いた。要するに、「角栄はアメリカにはめられた」ということである。角栄の周辺や元検察官などを徹底的に取材して、この事件には隠された疑惑がいくつもあると自分なりの確証を得ていたからである。

 

そして、この論文に角栄が強い興味を示した。1981年の『文藝春秋』のインタビューに際し、6年ぶりに田中の声を聞く相手として、私に白羽の矢が立ち、また角栄がそれを了解したのは、そのような経緯があり、私をある程度の理解者であると受け止めてくれたからであろう。

 

■ロッキードでは無罪だった?

 

ところで、ロッキード事件について、私は角栄に有罪判決が出た後も、事件の捜査や裁判に関わった検事や弁護士たちに無理を承知で徹底的に取材をした。すると思いもよらない新事実や、定説をくつがえす証言が次々に出てきた。

 

特に、事件の捜査を担当した東京地検特捜部検事の一人が、「丸紅の伊藤宏が、田中角栄の秘書官であった榎本敏夫にダンボール箱に入った金を渡したという4回の日付と場所については、どうも辻褄が合わない」と、判決を引っくり返す驚くべき話をした。

 

「被疑者の一人が嘘をしゃべり、担当検事がそれに乗ってしまった。今まで誰にも言っていないが、そうとしか考えられない」

 

特捜部検事は、それを「被疑者の罠」と呼んだ。被疑者が担当検事の追及に迎合し、検事の興味を引きそうな話を思いつくままに創作してしまったのだという。

 

もしも田中弁護団が戦術を変えて二審を戦うことができたら、そして4回の金銭受け渡しがあったとされる場所と日時の矛盾を突いていれば、角栄は無罪となった可能性が極めて高かった、と弁護団長は言った。

 

しかし、控訴中の1985年2月に脳梗塞で倒れた角栄は、言語障害や行動障害により、政治活動が不可能となり、1990年1月に政界引退を発表する。そして3年後の1993年12月に刑事被告人のまま75歳で死去した。

 

田原 総一朗
ジャーナリスト

 

 

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    本連載は田原総一朗氏、前野雅弥氏の著書『田中角栄がいま、首相だったら』(プレジデント社)より一部を抜粋し、再編集したものです。

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