北方領土解決へ「2島先行論」の妥当性
■北方領土問題の解決にどのように取り組むべきか
日本政府および政治家は、田中角栄が必死で切り開いた北方領土問題の解決と、日ロ平和条約締結の道を歩むべきだ。
プーチンは2000年9月に来日した際、「日ソ共同宣言は有効と考える」と発言、さらに2016年9月には「ソ連は2島を日本に返還する用意があった」と述べている。歴代ロシアトップの中で、北方領土問題の存在を率直に認め、その解決に極めて前向きな稀有なリーダーと言える。確かに年金支給開始年齢の引き上げ問題で一時支持率が急落したものの、現在でも高い支持率を維持している。
しかも、プーチンがロシアの歴代トップの中では例を見ない親日家であり、日本の理解者であることは間違いない。旧ソ連のKGB時代にプーチンは柔道を身につけたが、段位は8段、「柔道は単なるスポーツではない。柔道は哲学だ」と語ったということからしても、日本の本質を見抜いていることは間違いない。波長は合うはずだ。
日本はこの機を逃してはならない。この問題を仕上げた首相は必ず歴史に名を残す。日本立国の足場固めをした名宰相として、その名前が刻まれるだろう。
もともとプーチンは、2000年の最初の大統領就任直後から、周辺国との国境画定に積極的だった。中国のほか、ノルウェーやエストニアとの問題にも決着をつけたのが、その証左である。とりわけ中国との領土交渉は、善隣友好条約を結んだ後、国境論争をまとめるという手法をとった。これをプーチンは自らの成功体験として披露していることからも、彼にとって領土問題は極めて優先順位の高いイシューであることは間違いない。
この潮目を日本は見て取らなければならない。2018年11月14日、シンガポールで行われたプーチンとの会談で、当時の安倍晋三首相は「2島先行論」に舵を切った。これはまったく正解だ。平和条約締結後に歯舞群島と色丹島を日本に引き渡すことを明記した1956年の日ソ共同宣言を基礎に、日ロ平和条約交渉を加速させる。この手法でいいのだ。
北方4島一括返還を強硬に主張する論客たちは、表面的には勇ましい。しかし、残念ながら、これは「北方4島は要らない」と言っているのと同義である。ロシアが4島をまるまる返す可能性がゼロであることをわかっていながら、それを要求するのは交渉をぶち壊しているのと同じだ。これでは外交とは呼べない。
この点で、「歯舞と色丹を先行して解決する」とした当時の安倍首相の選択は正しいかった。実際、このとき、ロシア側は大統領府のサイトでわざわざ「日ソ共同宣言を基礎に交渉を活発化させることで合意した」と発表している。安倍首相との会談でも、1956年の日ソ共同宣言について、両国は「調印」しただけでなく「批准」していると繰り返したという。
■日ロ接近を歓迎しないアメリカの横やり
このときの熱量からすれば、その時点で日ロ平和条約は締結されていてもいい。では、なぜ現在に至るまで実現していないのか。それはペンタゴン(アメリカ国防総省)が横やりを入れたからだ。アメリカは日本とロシアの接近を決して歓迎しない。
これには前例がある。世にいう「ダレスの恫喝」だ。
このことをプーチンが指摘したことがある。
「(1956年)日ソ共同宣言に署名したとき、この地域に関心のあるアメリカのダレス国務長官が日本を恫喝した。『日本がアメリカの国益に反することをすれば、沖縄諸島全域はアメリカの領土になる』と」
どういうことか。